最新記事

トラベル

コロナ後の旅行を再開する「トラベル・バブル」構想に死角あり

Welcome to a World of Bubbles

2020年6月13日(土)15時10分
ジェームズ・クラブトリー(国立シンガポール大学准教授)

旅行の習慣を取り戻すには時間がかかる(6月、英ルートン空港) PAUL CHILDS-REUTERS

<ウイルス抑制や防疫管理体制で足並みが揃わない国や地域の間で分断が進む恐れも>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けた旅行規制の緩和をめぐり、イギリスとフランスは政治的応酬を繰り広げた。イギリスは6月8日以降、外国からの入国者全員に2週間の自主隔離を義務付けると5月15日に発表。フランスからの入国者については相互免除というそれまでの方針を撤回した。対抗してフランスも相互検疫の義務付けをちらつかせる始末。見かねた航空各社が政治ではなく科学に従った国策をと訴えたほどだ。

各地で浮上している「トラベル・バブル」構想は、協定を結んだ国が1つの「泡」に入り、検疫なしで自由に移動できるというもの。国際的な商取引と観光業の再開を可能にするとの期待が掛かる。だが信頼で結ばれた個別の協定に基づく旅行再開は、かえって新たな分断を生みかねない。特に中国、EU、アメリカの影響力を強調し、さらにはパンデミック対策がうまくいっている国と苦戦している国を分断するはすだ。トラベル・バブルは新たな地政学的秩序を(一時的にせよ)伴う。新秩序は疫学的に区分され、通商、観光、投資パターンに複雑な影響を及ぼす。

コロナ禍によって国際観光はかつてないほど落ち込んでいる。世界のフライトの約半数が休航、旅客数は95%減少。アメリカでは1日の旅客数が今年4月7日時点で1年前の200万人超から10万人弱に。世界屈指のハブ空港、シンガポールのチャンギ国際空港では旅客数が2019年の約6800万人、1日約19万人から今年5月には1日1000人未満に激減。出張キャンセルで打撃を受けた世界の業務渡航分野は今年8200億ドルの減収との試算もある。

それだけにトラベル・バブル構想は魅力的だ。EU加盟国のリトアニア、ラトビア、エストニアは既に5月15日に協定を結び、EU全域では移動規制が続くなかバブル内では住民の自由な移動が可能に。オーストラリアとニュージーランド、フランスとドイツとオーストリアも同様の構想を検討中だ。いずれ小規模なバブルが乱立、それらが結び付いて大きなバブルが生まれるかもしれない。

だが障害もありそうだ。まず、こうしたバブルがすぐに実現できる可能性は低い。オーストラリアは州をまたぐ国内線はまだ休航したままで、国際線再開は10月まで無理との見方を示している。他の国々もアウトブレイク(感染症の爆発的拡大)の代償を承知しているだけにバブル導入に慎重になるだろう。中国は5月末に出張でドイツからチャーター便で到着した男性が検査の結果、新型コロナの無症状感染者と判明したと発表。新型コロナ対策に成功している台湾も、当面は外国人の入境制限を続ける構えだ。

あくまでも「条件付き」で

バブル内でも規制は必要だろう。韓国と中国は5月から相互にビジネス目的の入国を認めたものの、ビザとPCR検査などの受診を義務付けている。他の2国間協定でも、条件として一定の検疫期間、旅行日程の事前提出、監視アプリのインストールを義務付ける可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中