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作業記憶

20分のウォーキングがコーヒー1杯のカフェインと同等に記憶力を向上させる

2020年6月1日(月)18時00分
松岡由希子

カフェインの同等に作業記憶を向上させる方法... vasakna-iStock

<カナダ・ウェスタン大学の研究によると、有酸素運動は、カフェインと同程度に作業記憶を向上させるという....>

カフェインは記憶力の向上に効果があることが知られているが、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し、処理する「作業記憶(WM)」の向上には、短時間の有酸素運動にもカフェインと同等の効果があるという。

有酸素運動は、カフェインと同等に、作業記憶を改善させる

カナダ・ウェスタン大学の研究チームは、カフェインと有酸素運動の作業記憶への効果を比較した。2019年12月23日に「サイエンティフィック・リポーツ」で公開された研究論文によると、有酸素運動は、カフェインと同程度に作業記憶を向上させるのみならず、カフェインの離脱症状を軽減させた。

研究チームは、健康な成人を対象に、中強度の有酸素運動としてランニングマシンで20分間ウォーキングした場合と、コーヒー1杯分のカフェイン量と同等のカフェインを摂取した場合で、作業記憶にどのような作用があるのかを比較した。その結果、定期的にカフェインを摂取しているか否かを問わず、有酸素運動は、カフェインと同等に、作業記憶を改善させることがわかった。

疲労感や気分の落ち込みなど、カフェインの離脱症状が軽減

研究チームではさらに、有酸素運動がカフェインの離脱症状やカフェイン離脱時の作業記憶にどのように作用するのかを分析。定期的にカフェインを摂取している被験者にカフェインの摂取を12時間禁じ、カフェインの離脱症状と作業記憶について検査をしたところ、頭痛や疲労感、イライラといった離脱症状はみられたものの、作業記憶への影響は認められなかった。検査後、被験者にランニングマシンで20分間ウォーキングさせると、疲労感や気分の落ち込みといったカフェインの離脱症状が軽減され、作業記憶もそのまま維持されていた。

有酸素運動が作業記憶の向上やカフェインの離脱症状の軽減をもたらすメカニズムについてはまだ解明されていないが、有酸素運動による脳の血流の改善や、神経細胞の発生や成長、再生などを促す「脳由来神経栄養因子(BDNF)」の分泌、ドーパミンやアドレナリンといったホルモンの分泌が何らかの役割を担っているのではないかと考えられている。

一連の研究成果によれば、カフェインの「副作用」を避け、作業記憶を高める手段として、短時間の有酸素運動が効果的といえる。有酸素運動には、減量や体力向上、心肺機能の向上など、他にも様々な効果が期待される。昼休みなどを活用して、ウォーキングの習慣を身につけてみてはいかがだろうか。


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