最新記事

医療

新型コロナで閑散とする街のクリニック 経営悪化と医療の質に懸念

2020年5月26日(火)11時21分

コスト意識の診療で質低下も

コロナ患者を受けている診療所や病院では、人材も病床もそこに集中する必要があり、他の患者の受け入れを制限してきた。その分、稼働率が低下し経営の悪化が目立っている。これを受けて政府も前向きに取り組む姿勢を示し、コロナ診療で収入が減少している医療機関への支援措置が、検討の遡上に上がっている。

一方、コロナ患者を受け入れていない小規模な診療所の患者減少による経営悪化については、日本医師会や日本病院協会などが5月1日、厚生労働省に支援要請を提出。本来は地域医療構想や在宅介護に充てる予定だった基金を診療所支援に使えるよう柔軟な対応を求めた。

全国保険医団体連合会でも、コロナウイルスに伴って患者の減少した診療所に国が減収分を補填するよう求めている。

日本医師会の中川俊男副会長はロイターの取材に対し、「病院・診療所の経営問題は、コロナウイルス患者を受け入れている医療機関の問題だけではない。それ以外の診療所なども含め、日本の医療提供全体の問題になってくる」と警告する。「今後、診療所が経営を維持するためには、看護師などの人件費を削減したり、機器の購入が困難になったりしかねない。経営を気にしながらの診療は医療の質を落としかねない」と懸念を示す。

コロナ禍による疾患増加は必至

緊急事態宣言に伴う国民の受診回避は、将来の疾患の急増につながる可能性が高い、との指摘も浮上している。

全国保険医団体連合会の理事も務める前出の山崎院長は、コロナ患者受け入れ病院が不急の入院や手術の受け付けを取りやめたほか、全国で健診や受診を控える動きが出ていることで、疾病の見逃しが生じていたはずだと指摘する。

特に乳幼児の場合はワクチン接種や定期健診が1カ月遅れただけで重大な疾患見逃しリスクが懸念されるという。訪問診療や老人ホームへの回診、デイサービスの減少も、ケアが必要な高齢者の歩行機能低下や体調悪化の急増につながる可能性がある。

診療所や病院の機能維持や経営支援は、コロナ以外の疾患や健康悪化が懸念される局面でこそ、重要な課題ともいえる。コロナ禍での医療崩壊は、我々の身近な医療環境をめぐる様々な面に及ぶ可能性があることを、念頭に置く必要もある。


中川泉(編集:石田仁志)

[東京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・新型コロナの死亡率はなぜか人種により異なっている
・第2次補正予算は13兆円前後か 一律現金給付第2弾は見送りも家賃支援に増額圧力
・東京都、新型コロナウイルス新規感染8人 1週間平均は6.8人に
・米メモリアルデーの週末、ビーチに人々が殺到 11州で感染増加し第2波のリスクも


20200602issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比+2.3%に鈍化 前月比0.

ワールド

ウクライナ大統領、プーチン氏との直接会談主張 明言

ビジネス

ソフトバンクG、1―3月期純利益5171億円 通期

ビジネス

日産、再建へ国内外の7工場閉鎖 人員削減2万人に積
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 9
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中