最新記事

東南アジア

フン・センを批判の女性活動家襲われる 新型コロナに乗じ首相権限強化のカンボジア

2020年5月14日(木)21時25分
大塚智彦(PanAsiaNews)

受け入れ国がなく行き場を失ったクルーズ船をの寄港を認め、自ら乗客を出迎えたカンボジアのフン・セン。Soe Zeya Tun - REUTERS

<非常事態を利用して、権力強化を図ろうとする独裁者がここにも>

フン・セン首相率いるカンボジア政府が新型コロナウイルス対策を名目に首相権限強化などを含めた非常事態法を成立させたカンボジア。反体制派や野党、マスコミの監視強化がますます強まるこの国で、当局によって解散を命じられた野党「カンボジア救国党(CNRP)」を支持する女性活動家が、正体不明の男性らに襲撃され負傷、脅迫される事件が起きた。

カンボジアでは2019年以来、CNRP関係者やその支持者、人権活動家などに対する治安当局関係者によるとみられる脅迫や迫害、襲撃事件が相次いでおり、人権団体などによると今回の女性活動家襲撃事件が16件目の事件となるという。今回の事件も国際社会に対してフン・セン政権の人権侵害の実態を改めて印象付ける事態となっている。

政権批判の動画に警察や軍が逮捕示唆する書き込み

5月11日、首都プノンペン市内で買い物をしていたエアン・マリナさんがヘルメットと覆面をした正体不明の男性に突然襲われた。

エアンさんは米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」に対し「覆面で顔を隠した男は石で頭を殴ってきた。昏倒しそうになったところを再び殴られた。そして意識が薄れそうになる中で男は"気をつけろ"と脅迫の言葉を残して去った」と襲撃当時の様子を語った。

エアンさんは襲撃前に自身のFacebookにアップした動画に関して、警察や軍関係者から脅迫や逮捕を示唆する書きこみがあり、炎上状態になっていたことを明らかにした。

その問題となった動画の中でエアンさんは新型コロナウイルス対策に乗じて首相の権限を拡大強化した非常事態法が議会で可決成立したことに関連して、フン・セン首相を厳しく批判していた。

国王だけがもつ権限を手にしたフン・セン

4月10日にカンボジア国会の下院、17日に上院で可決された「非常事態法」はコロナウイウス対策に関連して政府のメディア規制強化や通信傍受、人権制限などが盛り込まれ、国王にだけこれまで認められていた非常事態宣言の権限を首相にも与える内容となっている。

同法の有効期限は3カ月とされているが、さらなる延長も可能となっており、フン・セン首相による「独裁体制」のさらなる強化につながると野党関係者や国内外の人権団体からは批判が出ていた。

病院での治療後にエアンさんは「政権批判は止めない。国家指導者には民主的な政治を求めていく」と、今後も批判活動を続ける覚悟を示しているが、これによりエアンさんに対するさらなる襲撃や逮捕の危険も強まっているという。

エアンさんの襲撃事件についてプノンペン警察は「捜査中であるが今のところ逮捕者はいない」としている。

野党関係者は「プノンペンの権力者たちが反政府活動家などに暴力を行使するのは常套手段である」として今回のエアンさん襲撃事件も背後に治安当局の存在があるとの見方を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY連銀総裁、常設レポ制度活用巡り銀行幹部らと会合

ワールド

トランプ氏、カンボジアとタイは「大丈夫」 国境紛争

ワールド

コンゴ民主共和国と反政府勢力、枠組み合意に署名

ワールド

米中レアアース合意、感謝祭までに「実現する見込み」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中