最新記事

感染症

「新型コロナ感染長期化」という確実な将来 3つのデータが教える私たちのとるべき対策

2020年5月1日(金)18時15分
野村 明弘(東洋経済 解説部コラムニスト) *東洋経済オンラインからの転載

ここまでは比較的イメージしやすいものだった。だが、3つ目の変数である「集団免疫率」はもう少しかみ砕いて説明する必要がある。

接触削減などの対策のほかに、実はもう一つ、実効再生産数を低下させることのできるものがある。それは、集団免疫だ。

人間は感染から回復した後、免疫を獲得する。それによって、その病原体によって再度発症することはまれになる(病原体によって、免疫の強弱、効力の期間などに違いはある)。感染拡大が進むということは、この免疫をもつ既感染者が増えることを意味する。

既感染者が新規感染を遮断する

集団の中に既感染者がいると、彼らは未感染者にとって盾の役割を果たし、未感染者と感染者が接触する機会を減少させることになる。そのため、既感染者の増加とともに、実効再生産数は自然と低下していくことが経験上知られている。こうした既感染者による未感染者の保護効果のことを集団免疫と呼ぶ。

ここでも重要なのは、実効再生産数が1未満になるかどうかである。集団における既感染者の比率が高まれば高まるほど、実効再生産数は低下していき、最終的にはゼロ(新規感染ゼロ)になる。そして、実効再生産数が1に到達するときの集団における既感染者の比率のことを集団免疫率と呼ぶ。

reuters__20200430173548.jpg

集団免疫率は、集団免疫の効果を除いた当初の実効再生産数に応じて数値が異なってくる。実効再生産数がいくつであっても、集団免疫による数値の低下は同じように起こるが、もともとの実効再生産数が小さければ小さいほど(つまり1に近い)、早く1に到達するのは自明だろう。そのため、実効再生産数が小さいほど、集団免疫率は小さくて済む。

例えば実効再生産数が2.5の場合、集団免疫率は60%だ。1.7の場合は41%、1.1では9%となる。専門家などが「新型コロナでは、人口の6~7割が感染するまで感染拡大は終わらない」と話すのも、集団免疫率が根拠となっている。新型コロナの基本再生産数を2.5と想定し、何も対策を取らない場合(基本再生産数=実効再生産数)に集団免疫率は60%になるからだ。

厳密にいうと、集団免疫率に到達しても、すぐに新規感染者はゼロにならない。実効再生産数は1からゼロにジャンプするわけではなく、徐々に低下するからだ。このため、基本再生産数2.5において、新規感染がゼロになるまでの既感染者数の集団人口比は、集団免疫率を上回る70%強になる。

さて、以上が感染症疫学の数理モデルの基本だ。これによって、どんな感染の推移を予想できるだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中