最新記事

感染症対策

緊急事態宣言と経済対策──想定を超えるスピードに政策は追いつけるか

2020年4月8日(水)14時30分
矢嶋 康次(ニッセイ基礎研究所)

そもそも日本は、2018年の暮れから景気後退に入っている可能性が高い。昨年10月に実施された消費税率の引き上げによる影響があったところに、コロナショックが追い打ちをかけた。インバウンド関連以外にも、本格的な影響が広がったのは3月以降である。少しずつ3月分の経済指標や企業の月次実績が公表されつつあるが、大幅な悪化、落ち込みも散見される。事態の急速な悪化が懸念される中、感染拡大防止とセーフティネット構築を急がねばならない。国家財政が厳しい中で、最小限の規模で本当に困っている先に、効率的な支援を実施すべきだという考えもあるが、生活保障の支援対象など、制度設計の詳細に拘り過ぎるとスピード感が失われてしまう。少しでも早く困っている人や企業に支援が届くように、迅速な対応が求められている。どのような支援を受けることができるのか、どのような手続きが必要になるのか、認知・把握できていない個人や中小企業なども多いだろう。分かりやすい広報や相談窓口の充実にも期待したい。

2つ目の懸念は、「これで十分なのか」という点である。イタリアやスペイン、米国では爆発的に感染が拡大し、自宅待機要請や店舗の休業要請など厳格なウイルス封じ込め策が続いており、ウイルスとの戦いが長期戦に突入している。日本は爆発的な感染の「瀬戸際」にあり、「ぎりぎり持ちこたえている状況」とも指摘される。杞憂に終われば良いが、日本の現状は、まだ序盤戦に過ぎないと見るべきだろう。多くの人や企業が、いつ終わるとも知れない不安や不確実性に直面している。収入が大きく減少して生活に苦しむ世帯にとってみれば、この先、二度目や三度目の現金給付があるのか気になるところだ。事業継続の瀬戸際にある中小企業にとってみても、今回の緊急支援措置で乗り切れるのか、不安は消えない。政府は、今後の対策に向けた十二分の備えとして、これまでを上回る規模の予備費を創設するという。事態が長期化し、さらに悪化した場合には、二の矢、三の矢を躊躇なく打ち放つというぶれない姿勢を見せる必要がある。営業自粛を要請されて、生活できないという事業主もいると見られる。休業を余儀なくされる事業主への補償も、避けては通れない議論となるだろう。

いつ感染拡大が収束するのか、どこまで影響が拡大するのか、誰もが先を見通せない状況にある。その不確実性の強さゆえに社会不安が増幅している。このような時こそ、政府の役割が重要だ。先行きが見通せない中だからこそ、少しでも「安心」を与えられるかどうかがカギになる。「先手を打つ迅速さ」、「十分な規模感」をもってすることが危機対応の鉄則だ。後に振り返って、余分な対策だったと言われるかもしれないが、後手に回って不十分な対策しか打てず、社会経済に壊滅的な影響が出てしまってからでは、取り返しがつかない。まさに、今が正念場だ。

nissei.jpg[執筆者]
矢嶋 康次 (やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 研究理事
チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中