最新記事

感染症対策

緊急事態宣言と経済対策──想定を超えるスピードに政策は追いつけるか

2020年4月8日(水)14時30分
矢嶋 康次(ニッセイ基礎研究所)

なお、自粛の影響は、この試算以上に出てくるだろう。これまでは土日休日の自粛だったが、平日での実施となれば、通勤などで東京都に流入して来る人(東京には毎日291万人が入っている)が急減する。そうなれば、需要の落ち込みが企業の生産行動にも影響を与える。足元で自動車各社が始めている生産調整が、様々な業種にも広がる結果、需要はさらに減少する可能性があり、外出自粛が長期化すれば、影響は消費だけに留まらず、より甚大なものになるはずだ。

緊急経済対策が閣議決定、必要なのは「スピード感」と「躊躇なく二の矢、三の矢を打つ姿勢」

政府は7日、リーマン危機時(事業規模56.8兆円)を上回る規模の経済対策(事業規模108兆円)を決定した[図表3]。収入が大きく減少した世帯などへの現金給付(一世帯当たり30万円)、中小企業などへの新たな給付金制度の創設なども盛り込み、感染症拡大の収束に目途がつくまでの「緊急支援」を手当した。さらに、需要の急減で痛手を被った業界には、クーポン券などで需要を喚起する施策を準備するなど、感染収束後の「V字回復」に向けた景気浮揚策も盛り込む。これにより最低限の「止血策」が打ち出されたと一定の評価はできるだろう[図表4]。ただし、今後に向けては懸念点が無いわけではない。

Nissei200408_3.jpg

Nissei200408_4.jpg

1つ目の懸念は、「スピード感」である。3月27日に2020年度予算案を成立させた後、11日後には、経済対策の閣議決定まで漕ぎつけた。さらに月内には、裏付けとなる補正予算の成立が見こまれる。過去の事例と比較しても、極めて早い対応と言えるが、事態はそれを凌駕するスピードで悪化している。当初、国内の生活や経済活動が、ここまで影響を受けると思っていた人は少なかったのではないだろうか。中国の一部の都市や特定のクルーズ船で起きている恐ろしい出来事との認識だ、インバウンド関連等の一部の企業には、大きな影響が出るかもしれないと思ってはいても、「対岸の火事」のように見ていた人も多かっただろう。しかしその後は、国内でも感染者数が急増し、2月下旬にはイベント開催の自粛や小中学校等の休業要請等、日常生活や企業の活動が大きな影響を受ける事態となり、国内にも動揺が広がった。そして、東京五輪の開催延期、東京都などでの外出自粛要請、政府による緊急事態宣言と、事態は急速に悪化している。今後、日本も中国や欧米のように、感染者数が指数関数的に拡大する可能性がある。その悪影響も勢いを増していく懸念がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中