最新記事

新型コロナウイルス

日本の新型コロナウイルス対策は評価できるか──中国を参考に

2020年3月13日(金)20時00分
三尾 幸吉郎(ニッセイ基礎研究所)

全国の小中高校を休校に、という安倍首相の要請は唐突だったが(2月29日) ISSEI KATO-REUTERS

<全国一斉の小中高校の臨時休校を要請したことは正しい判断だったが、その理由を「子供の命と健康を守るため」とあいまいな説明で済ませたことが他のデータとの矛盾を生み、国民との行き違いの原因になった>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年3月10日付)からの転載です。

1──日本にとって参考になる中国の新型コロナ(COVID-19)情報

中国では新型コロナウイルスが猛威を振るっている。中国国家衛生健康委員会によれば、3月8日時点で新型コロナ(COVID-19)の確認症例は80,735名、死亡者は3,119名、致死率は3.86%となっている。また、中国疾病管理予防センター(中国CDC)が2月11日時点で集計した統計を公表した。公表内容を見ると、確認症例の年代別状況は(図表-1)、50歳代が22.4%、40歳代と60歳代が19.2%と多い一方、0歳代(0~9歳)は0.9%、10歳代は1.2%と少ない1。また、70歳以上の高齢層は11.9%を占めている。なお、男女比では男性が51.4%、女性が48.6%と大差ない。他方、致死率を見ると(図表-2)、高齢になるほど高くなる傾向が出ており、80歳以上では14.8%に達する一方、50歳未満では0%台に留まる。なお、基礎疾患を持つ人の致死率が高いことが指摘されており、心血管疾患では10.5%、糖尿病では7.3%、高血圧では6.0%の致死率に達している。その他にも、新型コロナウイルスは「L型」と「S型」に分類できるという研究結果を発表するなど、日本にとっては参考になる。

Nissei200313_mio1.jpg

2──湖北省(武漢)では"医療崩壊"も、その他の地域では回避できそう

新型コロナの発火点となったのは周知のとおり湖北省の武漢だった。その武漢では、新型コロナウイルスに感染した人やその疑いを持つ人が病院に押し寄せ、診察できない人が街にあふれ出すこととなったため、突貫工事で病棟を建て増すとともに、人民解放軍の医療スタッフを投入して治療にあたったものの、既に死亡者は2,328名に及んでいる。いわゆる"医療崩壊"が起きたのである。この責任を問われて既に更迭された元書記(武漢市のトップ)の馬国強氏も「責任を感じる。少しでも早く厳格な措置を取っていれば、結果は今よりも良かった」と釈明している。

ここで、武漢の"医療崩壊"を統計的に分析してみよう。武漢以外でも同様の事態が起きていないかを確認するためだ。まず、経済協力開発機構(OECD)が公表したデータによれば、中国の病床数は住民千人当たり4.34床(2017年)とされているため、武漢も同じという前提をおく。また、現存感染者のピークは2月18日の38,020名だったため、これを武漢の人口(常住)である1,108万人で割り算すると、ピーク時の現存感染者は住民千人当たり3.43名に達していたことになる。即ち、3.43÷4.34で79.1%の病床を新型コロナの現存感染者に割り当てなければならなくなったという計算になる(図表-3)。そもそも病床の空きが少ない中で、ガンなどの重病で入院している患者を退院されることもできず、院内感染を防ぐには隔離する必要もあったため、日本でも映像が放映されたように突貫工事で病棟を建て増すとともに、人民解放軍の医療スタッフを投入して治療にあたることとなった。

―――――――――――
1 若年層の確認症例が少ないのは無症状が多いため検査しなかったためとの見方もある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

追加利下げに慎重、政府閉鎖で物価指標が欠如=米シカ

ビジネス

英中銀総裁「AIバブルの可能性」、株価調整リスクを

ビジネス

シカゴ連銀公表の米失業率、10月概算値は4.4% 

ワールド

米民主党ペロシ議員が政界引退へ 女性初の米下院議長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    ファン熱狂も「マジで削除して」と娘は赤面...マライ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中