最新記事

移民

ヨーロッパを再び襲う難民・移民危機

Thousands of Refugees Attempt to Enter Europe From Turkey

2020年3月3日(火)16時30分
ブレンダン・コール

トルコとギリシャの国境に集まった移民たち(2月29日) Huseyin Aldemir-REUTERS

<トルコに金を払って一度は「片付けた」難民たちが、国際情勢の変化でまた欧州を目指し始めた>

ギリシャ当局は、2月29日に国境地帯でトルコ警察隊と衝突し、EU域内に逃げてこようとした数千人もの難民を阻止したと述べた。トルコのエディルネ県にあるパザルクル検問所にいるドイツ国際公共放送ドイチェヴェレの記者によると、ギリシャ警察隊は難民に向かって催涙ガスを使用したという。難民は投石で対抗した、とAFPは報じている。

ギリシャとトルコの国境地帯に難民が押し寄せたのは、トルコ政府が、難民がEU域内に入るのを止めなくなったからとみられる。

ロシア軍の支援を受けるシリア軍は2月27日、トルコ軍の支援を受ける反体制派の拠点、シリア北部イドリブ県で空爆を行い、トルコ軍兵士が少なくとも33人死亡した。

トルコ大統領府通信局のファフレッティン・アルトゥンは、シリアからの難民受け入れに対してEUから十分な支援が得られないなら、国境警備を緩めるしか「選択肢がない」と述べたという。これまでにトルコが受け入れたシリア難民は340万人以上に上っている。

トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領が懸念しているのは、イドリブ県に対する攻撃が続くことで、さらに数十万人もの難民がトルコに押し寄せてくることだ。トルコは、シリアの紛争地帯から逃れてきた難民であふれ返っている。

トルコが難民をEU域内へ越境させることを示唆したのは、西側諸国と北大西洋条約機構(NATO)に圧力をかけ、シリアの進撃を阻止するための支援を引き出そうという策略かもしれないと、英スカイニュースは報じた。

EUへの扉が開く!

AFPによると、エルドアンは2月29日、トルコはシリア難民をこれ以上支援することはできないと述べた。そして、「私たちは扉を閉鎖しない。それはなぜか? EUが約束を守らないからだ」と語り、2016年3月にトルコとEUが交わした、トルコが難民のEU流入を阻止する見返りにEUから経済支援を受けるという合意に言及した。

ドイチェヴェレの記者は、国境の様子について、難民のなかにはフェンスの下をくぐって国境地帯に入ろうとしている人がいたと語った。催涙ガススプレーの影響で、多くの人が目に涙を浮かべていたという。スカイニュースはツイッターに、国境の騒乱を映した動画を投稿。そこには幼い子どもたちも映っている。

投稿したリポーターによれば、彼の周囲にいる難民たちの多くは何年も前に欧州を目指してやってきたアフガニスタン人などだという。EUが扉を閉ざしたのでトルコで生きていこうとしたが医療にもかかれないなど暮らしは厳しく、エルドアンがギリシャとの国境を開くと聞いてやってきたのだと。

BBCによると、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は、トルコとの国境にどれほど多くの難民が押し寄せようとも、「ギリシャへの不法入国は許されない」と述べている

ギリシャ政府報道官ステリオス・ペタスは、ギリシャは「組織立った大規模な不法攻撃にさらされた。国境への侵入行為が起きたが、何とか耐えた」と述べ、「4000人以上がギリシャへの不法入国を試みたが、それを阻止した」と続けた。

オバマ政権でシリア問題の特使を務めたフレデリック・ホフは、アメリカはこの問題に介入し、トルコによる対シリア軍・対ロシア軍の軍事活動を支援すべきだと述べた。(翻訳:ガリレオ)

<参考記事>EU、不法移民規制でトルコと合意
<参考記事>EU諸国の無策で再び訪れる欧州難民危機

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破 AI

ビジネス

株式と債券の相関性低下、政府債務増大懸念高まる=B

ビジネス

米国株式市場=ナスダック連日最高値、アルファベット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中