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東京五輪、延期決定の舞台裏 日本とIOCが読み誤った国際世論

2020年3月28日(土)10時05分

潮目が変わった

「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピックを完全な形で実現するということについて、G7の支持を得た」。安倍首相は3月16日夜に行われた主要7カ国(G7)首脳との緊急テレビ電話会議の後、記者団にこう明言した。この数日前、トランプ米大統領は「1年間延期した方がいいかもしれない」と述べていた。

安倍首相が語った「完全な形」とは何を意味していたのか。首相に近い関係者は、G7後の首相発言は、実は完全な形での開催を実現するための延期に向け、世論の地ならしをするためだったと明かした。

ある組織委員会関係者によると、そのころには予定通りの7月開催は不可能であるとの認識がすでに組織委内にあったが、それを公言することはできなかったという。

G7首脳のテレビ電話会議から2日後、日本オリンピック委員会(JOC)の田嶋幸三副会長がコロナウイルスに感染したことが発表された。日本サッカー協会会長も務める田嶋氏はその前週に、森組織委員会会長を始めとするオリンピック関連の重要人物と会議で同席していたことが明らかになった。

「まさにコロナウイルスの危険を実感した瞬間だった」と、ある関係者は振り返る。

3月半ばまでに、全世界のコロナウイルスによる死者数は1カ月前から4倍の7980人に増えていた。今では2万2000人を超えている。

IOCも決断に遅れ

東京五輪の7月開催に向けて強気を押し通していたのはIOCも同様だ。組織内の議論を良く知る関係者によると、IOCは、つい先週まで、当初の批判を乗り切ることができると信じていたという。

ドイツやスペインが国境を封鎖し、北米でも大規模な都市のロックダウンが行われている最中に、IOCは複数の国のオリンピック委員会に対し、アスリートが東京大会に備えて練習ができるよう、週末にもトレーニングセンターを開けるよう要請していた。

各国の委員らは移動制限や外出禁止令の下で、アスリートが練習することは不可能だとの懸念が相次いだ。一方、IOCは17日の臨時理事会で東京大会を予定通り7月24日から行う方針を確認、バッハ会長は3月19日、ニューヨークタイムズ紙とのインタビューで、大会までまだ4カ月半あり、代替案について憶測するのは拙速だ、と開催変更の可能性には言及しなかった。

ロイターはIOCの広報を通じてバッハ会長に複数の質問を送付したが、具体的な回答は得られず、すでに会長が行った発言を参照するよう求められた。その中には、「感染が大きく拡大する新型コロナウイルスの事態の進展」をもとに大会の延期を決めたなどのコメントが含まれていた。

しかし、各国の著名アスリートから感染拡大を懸念し開催延期を求める声が高まる中で、IOCは軌道修正に動く。22日、IOCは緊急理事会を開き、4週間をめどに大会の延期を含めた結論を出すことを決めた。

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