最新記事

ヨーロッパ

新型コロナウイルス感染拡大にも慌てないフランスの手腕

2020年3月9日(月)13時21分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

新型コロナウイルスへの感染をおそれる職員たちの勤務拒否で休館したルーブル美術館と列に並んだ観光客(3月1日) Gonzalo Fuentes-REUTERS

<感染症対策が進んだフランスでは国民も落ち着いている、と筆者。そのフランスから見ると、「検査拒否」も報じられる日本は五輪開催にふさわしくない国と判断されかねないという>

3月7日13時55分発表で716人だったフランスの新型コロナウイルス感染者が、4時間後の19時40分発表では949人になった。この記事がアップされるころには1000人を超えているだろう。国会議員も2人感染し、1人は集中治療室に入っている。もちろんニュースは新型コロナウイルスで溢れている。

だが、パリは、ふだんより人通りが減って、落ち着いている。公共交通機関の度重なるストで通りが車と自転車と電動キックボードで溢れていたのが嘘のようだ。マスクをした人も少ない。フランスでは、たんなる予防のためには意味がないとされている。

もちろん、感染の疑いのある人や濃厚接触の可能性の高い人にはマスクは不可欠である。ルーブル美術館が3月1日、2日に臨時休館に追い込まれたのは、感染をおそれる職員たちが危険な業務につくことを拒否する「撤退権」を行使したためだが、要求の中には職員へのマスクの配布もあった(4日から再開)。

学校全員を無料で検査

落ち着いているのは、医療体制が整っているからでもある。感染者数が増えたのは、きちんと検査が行われていることの裏返しだ。学校などで感染者が出ると、生徒や教員など関係者全員検査が行われる。職場の労働医や町医者が感染の疑いを持つと、すぐ検査を受けさせる。もちろん無料である。

付随する措置についても省庁横断的に対策が取られている。新型肺炎情報そのものは保健連帯省が発表するが、交通、教育、労働、財務など分野ごとにそれぞれの担当大臣が記者会見、説明する。

経済的社会的影響も早くから考慮されていた。たとえば1月31日には、従来の休職疾病保障では病気でない人の隔離や待機には手当が支払われないという不都合を修正し、感染していなくても最長20日間手当を受け取れるとする政令を発した(20日を超えて当人が病気の時には、通常の疾病手当)。

対策のレールがしっかりと敷かれ、政治家、官僚、科学者......がそれぞれの持ち場で役目を果たして着実に前に進んでいるのがわかる。

実は、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2003年、ジャック・シラク大統領の下で「予防原則」が憲法に加えられた。たとえ科学的に確固としたエビデンスがない場合でも予防を第一にする、という考え方で、もともとは環境問題が念頭にあったのだが、翌年までには「伝染病の蔓延など特定の衛生緊急事態および危機に対応する『PlanBlanc(白プラン)』」が法制化された。テロ事件や大事故、伝染病対策などを対象とするもので、必要に応じて何度も計画が立てられ改良されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ノーベル賞逃し軌道修正 「もう平和だけ

ワールド

イラン、インターネット遮断解除検討か 国営TVハッ

ワールド

米の脅迫に屈さず、仏独財務相 反威圧措置も選択肢に

ワールド

高市首相23日解散表明、投開票2月8日 与党過半数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 7
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中