最新記事

新型コロナウイルス

中国を笑えない、新型ウイルスで試される先進国の危機対応能力

The West Is About to Fail the Coronavirus Test

2020年2月27日(木)19時30分
イーサン・ギレン(健康問題コンサルタント)、メリッサ・チャン

事実上封鎖されたイタリア北部のコドーニョで、スーパーの前にできた長蛇の列(2月25日) Marzio Toniolo/REUTERS

<クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で発生した集団感染は、中国のような独裁国家でなくても未知の感染症への対応では後手に回ることもあることを世界に示した。多くの国がパンデミックに冷静に対応できないままでは、ウイルスと同じくらい大きな人災を招きかねない>

独裁者になりたければ、政敵を粛清し、自身の指導体制をたたえる個人崇拝ムードを醸成すればいい。だがそうやって権力を一手に握れば、災厄が降りかかったときに人々の怨嗟を一身に集めることになる。いい例が中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だ。新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、国内の死者が2700人を超えるなか(2月27 日時点)、習は自身が矢面に立たないよう「批判かわし」に躍起になっている。

新型コロナウイルス危機は、中国の医療機関だけでなく政治指導部にも途方もない重圧をかけている。驚くことに中国の指導部も2月3日に一定の非を認め、習が率いる会合の公式声明の形で、新型ウイルスは「中国の現体制と統治能力に対する大きな試練」であると明言した。震源地の湖北省武漢市では、トイレ休憩も取れないほど忙殺された医師が紙おむつを着けて診察を行うありさまで、癌患者の治療が後回しにされているという悲痛な声も上がっている。

中国政府がウイルス対策でやることは、ことごとく世界の批判的な目に晒されてきた。だがそれはもはや中国に限らない。このウイルスの猛威は春になっても収束しないと、世界中の専門家が警告し始めている。ハーバード大学の研究者が、来年までに世界人口の40%〜70%が感染すると予測するほどの状況下で、今や世界のあらゆる国々の危機対応能力が問われている。現状を見る限り、先進国も含めて多くの国々が合格点は取れそうにない。それどころか、一部の国々は悲惨な結果に終わる可能性もある。

<参考記事>新型コロナウイルス最大の脅威は中国政府の隠蔽工作

エボラの教訓に学ばず

日本政府が乗員・乗客を隔離したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が起きたことや船内の防疫の不備が国際的な批判に晒されているのを見ると、情報が公開されているはずの先進国ですら、未知の感染症への対応では後手に回ることが明らかになった。ウイルス封じ込めのための国際的な戦いを主導するのはWHO(世界保健機関)のはずだが、資金力も政治力も不十分で、パンデミック(世界的大流行)には対処できそうにない。

各国の感染防止対策はほとんど効果を上げていない。対策の主な手段は人権無視の隔離と検疫しかなく、中国では人口の半分以上に当たる7億6000万人が移動を制限された。オーストラリアからロシアまで、多くの国々が中国からの渡航者の入国を制限。韓国政府と与党は感染者が集中する大邱・慶尚北道に「最大限の封鎖措置」を実施すると発表して世論の激しい反発を買った。韓国で4番目の大都市である大邱は今ではゴーストタウンのようになっている。

新型コロナウイルスの疫学的特徴はいまだ明らかになっていないが、2014年のエボラ出血熱の集団感染から重要な教訓を引き出せるはずだ。エボラの壊滅的な流行を受けて、WHOは緊急対応体制を練り直し改善した。加盟国の支援があったからこそできたことだ。ところが今では、加盟国が応分の負担を拒んでいるために、WHOはアメリカの大病院と同規模の予算で運営されている。国境を超える未知の感染症を封じ込める戦いなどできるわけがない。

<参考記事>遂に「日本売り」を招いた新型肺炎危機──危機を作り出したのはウイルスでも政府でもなくメディアと「専門家」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、ハードテクノロジー投資のVCファンド設立=国

ワールド

金・銀が最高値、地政学リスクや米利下げ観測で プラ

ワールド

中国、26─30年に粗鋼生産量抑制 違法な能力拡大

ビジネス

26年度予算案、過大とは言えない 強い経済実現と財
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中