最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルス最大の脅威は中国政府の隠蔽工作

TURNING CRISIS INTO CATASTROPHE

2020年2月27日(木)18時30分
ローリー・ギャレット(科学ジャーナリスト)

首都北京市で感染の予防と抑制の模様を視察する習近平国家主席(2月10日) XINHUA-REUTERS

<習政権のごまかしが拡大させた新型コロナウイルスの被害──「ピークは過ぎた」という言い分を信用できるのか>

新型コロナウイルスの感染拡大は、深刻な局面を迎えている。地球規模の大惨事を防げるかどうかは、震源地たる中国政府の対応次第。しかも残された時間はもうわずかしかない。

中国政府は表向き、COVID-19(2019年型コロナウイルス感染症)の感染拡大は当局の努力で抑えられつつあり、間もなくピークに達して終息に向かうとしている。でも、本当にそうだろうか。

最初のうちWHO(世界保健機関)をはじめとする国際社会は中国政府の対応を信用していた。なにしろ世界第2位の大国だから、大事な問題で嘘をつくとは思えない(少なくとも、そう思いたくなかった)。

しかし今、この国には各国からの非難が集中し、国内でも不信や不満の声が高まっている。中国政府が重要な情報の隠蔽や嘘を重ね、結果的に致死的なウイルスの封じ込めに失敗し、その感染拡大を招いた可能性が高いからだ。

新型ウイルスの流行が1月初旬に世界の注目を集めて以来、中国の政府当局は淡々と感染者数の増加を発表してきたが、衝撃だったのは2月13日に数値を突然修正し、湖北省だけで新たに1万4840人の感染が確認され、国内の感染者数が合計5万9804人に達したと発表したことだ。修正の理由は湖北省で診断基準を下げたためとされるが、その他の地域では以前の基準のままだ。

新型肺炎の発生について最初に警鐘を鳴らした武漢の李文亮(リー・ウエンリエン)医師が、自身も感染して死亡したのは2月7日未明のこと。これで明らかになったのは、この未知のウイルスの来歴や感染経路を中国共産党がごまかそうとしてきた事実だ。

中国問題の専門家からは、習近平(シー・チンピン)政権下で起きた今回の危機を1986年にソ連(当時)で起きたチェルノブイリ原発の事故になぞらえる声も上がっている。医師としての使命に殉じた李の姿を、1989年に首都北京の天安門広場へ向かう戦車の隊列の前に立ちはだかった名もない市民の姿に重ね合わせる人もいる。

中国事情に詳しいジャーナリストのビル・ビショップは、自身のニュースレターで先日こう指摘した。「国民に確かな幸福と経済的繁栄を提供するという党と国民の社会契約は、この数十年で見たことのないほどの危機にさらされている......私は先に『1989年(の天安門事件)以降の中国で、これほどまでに習主席と党の存続を揺るがす事態はない』と書いたが、その兆しはさらに強まっている」

問題は指導部内の権力争いにとどまらない。工場の操業停止や都市の封鎖で産業界は深刻な影響を受けているし、世界各国の公衆衛生当局は自国内での感染拡大に警戒を強めている。1月28日に習らと会談したWHOのテドロス・アダノム事務局長は、グローバルな緊急事態を宣言するのが遅かったとして各方面から批判されている。

その会談の翌日から、習は表舞台に現れなくなった。そして2月10日になってようやく、マスク姿で北京市内を視察した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ファーウェイ、チップ製造・コンピューティングパワー

ビジネス

中国がグーグルへの独禁法調査打ち切り、FT報道

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中