最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルス最大の脅威は中国政府の隠蔽工作

TURNING CRISIS INTO CATASTROPHE

2020年2月27日(木)18時30分
ローリー・ギャレット(科学ジャーナリスト)

magw200227_coronavirus3.jpg

通行止めになった道路 REUTERS


中国が発表する数値に嘘はないのか。ウイルスの感染経路や重症化しやすい患者のタイプに関する中国当局の報告は信頼できるのか。李医師が昨年12月30日のチャットで初めて感染拡大の懸念を表明(当局は「デマを拡散した」として李を処分)して以降も、中国側は国内政治的な思惑から真実を隠蔽し、リスクを低く見積もり、それに合わせて公式の感染者数や死者数を調整してきた。

失われた国内外での信頼

結局、肝心なのは信頼だ。だが中国国内でも当局は国民に信頼されていないようにみえるし、各国の公衆衛生当局からも信頼されていない。

政府と国民の信頼の絆が悲しみや混乱、感情的ないし医学的な困難よりも強くなければ、疫病と戦い、勝つことはできない。中国政府は過ちを犯して絆を危険にさらした。もう修復は不可能かもしれない。

昨年末から1月19日までの間に中国共産党が出していた公式見解は、「武漢の海鮮市場でごく少数の人が新型ウイルスに感染し、数人が肺炎で入院した。原因はまだ不明だがSARS(重症急性呼吸器症候群)ではないし、似てもいない」というものだった。公表されたデータは、この筋書きに都合よく合っていた。そして、これに矛盾する情報の発信者は抑圧された。

昨年12月31日には新型肺炎の発生が公式に発表されたが、市場の閉鎖で感染拡大は阻止できたという2番目の筋書きが浮上した。まだ人から人への感染は証明されていなかった。

その後2週間、公式の患者数はほとんど変化せず、中国国民に対しては、地元の警察と保健当局がウイルスの大流行を阻止したというメッセージが伝えられた。

頑張れば感染拡大を防ぐことができたかもしれないこの重要な2週間を通して、ウイルスは海鮮市場とは関係ないところまで拡散していた。1月上旬にかけて、武漢のコロナウイルス患者の約半数は市場とは関係なく感染し、感染者数は週ごとに倍増していった。インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者は、1月12日の時点で既に1723人が感染していたと推測している。

中国政府の封じ込め成功の物語を疑う国際的な不安が高まり、ウイルスが人から人へ感染する証拠が否定できなくなると、習は新たな情報操作を命じた。

そして公式発表でも感染者と死者が激増した1月19日、政府の公式ストーリーは突然変化した。武漢市の指導部は海鮮市場の件にはもう触れず、それまでの言い分について非難の矛先を向け合い、1100万人都市のかなりの部分を封鎖した。しかし春節が近づき、隔離に対する不安が広まるなか、何百万もの武漢住民が市を離れ、中国全土に散り、知らないうちにウイルスを運んだ。

中国政府は2003年のSARSの対策を参考にして、中国全土でさまざまな封鎖措置を行った。武漢は他の地域から物理的に遮断され、反政府的、批判的な声と同じように、町の声もネットから遮断された。

春節の里帰りは控えるよう命じられた。学校や職場でのウイルス拡散を抑えるため、国中で春節休暇が延長された。湖北省や近隣地域全体で約1億人が自宅待機を求められた。

香港大学のウイルス専門家、管軼(コアン・イー)は、この隔離作戦が失敗する可能性に言及し、流行拡大が確実であると警告。控えめに見てもSARSのときの10倍、感染例が8000件を超えるかもしれないと語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イラン・イスラエル和平を楽観視 プーチ

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの体制崩壊も視野 「脅威取り除

ワールド

トランプ氏、イスラエルとイランの停戦合意を期待

ビジネス

仏ルノーCEOが退任へ、グッチ所有企業のトップに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中