最新記事

野生動物

新型コロナウイルスの流行で中国は野生動物を食べなくなるか

The Coronavirus Could Finally Kill the Wild Animal Trade

2020年2月26日(水)17時45分
リンジー・ケネディ、ネイサン・ポール・サザン

中国には様々な野生動物の肉を取引する市場がある(写真は2018年、広西自治区玉林の犬肉祭) Tyrone Siu-REUTERS

<危険な病原体への感染リスクを高める野生動物の密猟や食用消費をやめさせるには、ウイルスに対する恐怖心が強まっている今こそが好機だ>

エボラ出血熱、炭そ菌、腺ペスト、HIV、SARS(重症急性呼吸器症候群)、そして新型コロナウイルス──恐ろしい響きをもつこれらの感染症はいずれも、「動物由来感染症」に分類される。動物由来感染症は種の境界を越えて感染し、まだ免疫をもたない人間にとってはとりわけ危険な感染症だ。

中国・湖北省の武漢市を中心に感染が拡大したCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、野生のコウモリが感染源である可能性が高いが、コウモリからヒトにウイルスを媒介した動物が何だったのかは、まだわかっていない。ウイルスを媒介したのが希少動物(たとえば、ほぼ同じウイルスが検出された絶滅危惧種の哺乳類センザンコウ)であれ、豚のようにより馴染みのある動物であれ、ひとつはっきりしていることがある。狭い空間に何種類もの動物を詰め込めば、それだけウイルスの感染経路が増え、ウイルスが突然変異を起こす可能性も高くなるということだ。

<参考記事>新型コロナウイルスを媒介したかもしれない「センザンコウ」って何?

この事実は警戒すべきだ。なぜなら近年、動物由来感染症のリスクは増大の一途だ。ヒトがかかる新しい感染症の4分の3は、動物由来だ。過去100年、人間は野生動物の生息地の奥深くに踏み込み、人間や家畜が未知で多様な野生動物と接触する機会も増えた。ということは、それらの動物が持つ細菌やウイルスとの接触もそれだけ増えたのだ。

野生動物は未知の病原菌源

「野生動物を狩る人は、未知の環境に触れることが多いので、それだけ未知の病原菌に晒される機会も多くなる」と、WHO(世界保健機関)の国際食品安全当局ネットワークのピーター・ベン・エンベレクは言う。「自分のためにも、絶滅危惧種の密猟や密売をやめるべきだ。世界のあらゆる保健当局が同意するだろう」

だが口で言うほど簡単ではない。野生動物の不正取引は年間260億ドルもの利益を生み出しており、儲かる違法産業のトップ4に入っている。

とりわけトラの骨やサイの角、センザンコウのウロコなど希少動物の希少部位は漢方薬の材料として珍重され、中国での需要が取引を促進している。2013年に習近平国家主席が、公務接待でフカヒレなど野生動物を材料に含む料理を出すことを禁じるまで、中国では希少動物を使った料理が宴席の定番だった(習がこれらの料理を禁止したのは環境への配慮からではなく、腐敗取り締まりの一環だが)。

<参考記事>世界人口の6~7割が存在も魅力も知らないまま絶滅させられそうな哺乳類センザンコウを追うドキュメンタリー
<参考記事>新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル155円台へ上昇、34年ぶり高値を更新=外為市

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 9

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 10

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中