最新記事

米イラン対立

スレイマニ殺害はトランプの政治的勝利に終わったのか

Trump Addresses Nation On Iran Crisis, Announces New Sanctions

2020年1月9日(木)15時50分
トム・オコナー

イラン情勢について国民向けの演説をするトランプ大統領 REUTERS/Kevin Lamarque

<駐留米軍に対するイランの報復攻撃で死傷者が出なかったことから、トランプはこれですべては丸く収まる、とでも言いたげだが>

ドナルド・トランプ米大統領は1月8日、アメリカ国民に向けた演説で、イランがイラク国内の駐留米軍基地に向けてミサイルを発射したことにどう対応するかを説明した。

イラン革命防衛隊は7日、イラク国内の駐留米軍基地2カ所に短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルを数十発撃ち込んだ。米軍が、革命防衛部隊の精鋭「クッズ部隊」のカセニ・スレイマニ司令官をドローンで「残虐に殺害した」ことに対する報復だ。

トランプは、スレイマニ殺害の決断は正しかったと改めて主張する一方で、イランの攻撃でもアメリカ人の犠牲者は出なかったと明らかにした。その上で、アメリカとイランは両国の共通の敵である過激派組織IS(イスラム国)と戦うために協力できると呼び掛けた。

ムシのいい話だが、すべてはトランプの思惑通りになるのだろうか。米政府はスレイマニ殺害は自衛、あるいは報復のためだったとしているが、報道によれば、トランプは事前に、スレイマニを殺せば支持率は上がるし、イランも大した報復はしてこないだろう、と語っていた。それが本当なら、トランプは個人的な利益のために政策を歪めたのかもしれない。しかもそのために、イランと全面戦争に陥る危険を冒したことになる。

トランプの弾劾裁判のテーマであるウクライナ疑惑と同じ構図だ。年明けから本格化するはずだった弾劾論議も、スレイマニ殺害事件で吹き飛んだ観がある。

<参考記事>イラン軍司令官を殺しておいて本当の理由を説明しようとしないトランプは反アメリカ的

IS掃討では共に戦ったが

イランのミサイル攻撃でアメリカ人の死者が出なかったことについても、トランプは自慢げに語った。「予防策を取っていたし、早期警戒システムがうまく機能して兵士たちを避難させていた」

イランの攻撃自体も、犠牲者が出ないよう抑制されていたようだ。そこでアメリカも軍事的な報復はせず、経済制裁強化による「最大限の圧力」政策に切り替えると、トランプは語った。少なくとも目先の緊張は和らいだ。

トランプはイランに対し、恒久的な緊張緩和の道も提示した。アメリカとイランは、共通の敵であるISの打倒で協力することができる、というのだ。

アメリカとイランは40年にわたって対立を続けているが、ISを掃討するという目的は一致していた。とくにイラクではそうだ。しかし隣国シリアでは、アメリカがクルド人主体のシリア民主軍を支援したのに対し、イランはアメリカと対立するシリア政府軍を支援したことで袂を分かった。

米軍が殺害したスレイマニ司令官も、イランとISの戦いにアフガニスタンやパキスタンなど遠く離れた地の同盟組織を動員するなど、中心的な役割を果たしてきた。だがISの勢力が弱まると、中東地域におけるイランとアメリカの対立が再燃。とりわけ2018年にトランプ政権がイラン核合意から離脱した後は、対立が激化した。

<参考記事>軍事力は世界14位、報復を誓うイラン軍の本当の実力

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマーク、女性も徴兵対象に 安全保障懸念高まり防

ワールド

米上院可決の税制・歳出法案は再生エネに逆風、消費者

ワールド

HSBC、来年までの金価格予想引き上げ リスク増と

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中