最新記事

教育

中学以降も電卓を使わせない日本の遅れた数学教育

2019年12月5日(木)15時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

学年が上がると共に筆算から離れるのが世界では多数派 South_agency/iStock.

<世界的には中等教育以降の数学では電卓を使用して思考や説明に重点が移っていく国が多いが、日本の現場ではそうなっていない>

エミール・デュルケムの『自殺論』は、社会学の古典として広く知られている。刊行は19世紀の末で、コンピューターはおろか電卓すらなかった頃だ。ヨーロッパ各国の時代別・地域別・身分別等の自殺率を手計算ではじき出すのは、膨大な労力を要したことだろう。

今は電卓があるので、複雑な計算も簡単にできる。コンピューターも出回っているので、人口学的・天文学的なレベルの計算も、個人でやってのけることができる。こういう時代だというのに、3ケタや4ケタの四則演算を紙と鉛筆でやらせることに意味があるのか......こういう疑問を持つ人も多いはずだ。

国際教育到達度評価学会(IEA)の国際学力調査「TIMSS 2015」では、各国の教員に「算数・数学の授業で電卓を使わせるか」と尋ねている。この問いへの回答を国ごとに比べると面白い。<表1>は、「自由に使わせる」「場合による」と答えた小学校教員の割合を高い順に並べたものだ。

data191206-chart0102.jpg

小学校の授業での電卓使用率の国際比較だ。47カ国でみると93%から3%まで大きな開きがある。日本は61%で、意外にも高い部類に入る。後で触れるが、学習指導要領では電卓の使用は推奨されている。

最も低いのはシンガポールで、この国の小学校では電卓の使用がほぼ禁止されているようだ。国際学力調査で上位常連国だが、地道に計算力を鍛えていることが良い結果を出している、と考える人もいるかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ワシントンの犯罪取り締まりで逮捕者らの給付金不

ワールド

フィンランド、米国との二国間の軍事協力は深化=国防

ビジネス

航空連合ワンワールド、インドの提携先を模索=CEO

ワールド

トランプ米政権、電力施設整備の取り組み加速 AI向
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中