最新記事

アメリカ経済

トランプがマイナス金利にご執心!?──日本はトクしていると勘違い?

Japan’s Topsy-Turvy Economy Is the United States’ Economic Future

2019年11月14日(木)16時38分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

しかし日本自身は、MMTを認めていない。政府が赤字を積み増し、日銀が新たな債務を吸収し続けているなかでも、財務省と日銀は「日本は正常な状態に戻り、徐々にバランスシートを縮小していかなければならない」と主張している。

日本政府は最近、巨額の債務を少しでも減らし、高齢化社会に備えて社会保障費の安定した財源を確保する計画の一環として、消費税を8%から10%に引き上げた。日銀の黒田は衆議院の財政委員会でMMTについて質問を受けると、「日本の財政状況がMMTの議論を裏付けていることは全くない」と答えた。麻生太郎財務相は、MMTは「極端な考え方であり、財政規律を緩めるのは危険だ」と指摘。日本政府の金遣いの荒さを考えると皮肉にも思える発言だ。

2008年の金融危機で分かったように、流動性は一夜にして消え去る可能性がある。各種金利が歴史的な水準を回復すれば、債券保有者は大規模な評価損を抱えることになり、デフォルト(債務不履行)の連鎖が引き起こされる可能性がある。だが日本の財政についてはもう30年近く同じことが言われてきた。「中央銀行はあらゆる人の救済に前向きな姿勢を示しており、少なくとも当面の間、財政破綻のリスクは低い」と富士通のシュルツは言う。

問題は長期的な展望だ。今後の見通しに警鐘を鳴らしているひとりが、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者レイ・ダリオだ。彼は最近、リンクトインに「世界は狂いシステムは壊れた」と題するエッセーを投稿した。この中で、富と機会の格差拡大の危険性を警告している。ダリオは、株式も債券も、余剰資金がますます問題のある投資に注ぎ込まれていると指摘。同時に、各中央銀行は永久に債券を買い入れ続けることはできず、経済の減速にともなって市場から手を引く必要があり、それが金利の急騰や株価や債券価格の暴落を招くとも主張した。

「このような状況は持続不可能であり、これ以上こうしたやり方を続けていくことはできない」と、ダリオは結論づける。しかしこの分析をもってしても、トランプの意思を揺るがすことはできないだろう。

From Foreign Policy Magazine

20191119issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月19日号(11月12日発売)は「世界を操る政策集団 シンクタンク大研究」特集。政治・経済を動かすブレーンか、「頭でっかちのお飾り」か。シンクタンクの機能と実力を徹底検証し、米主要シンクタンクの人脈・金脈を明かす。地域別・分野別のシンクタンク・ランキングも。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-リクルートHD、今期の純利益予想を上方修正 

ビジネス

スクエニHD、純利益予想を下方修正 118億円の組

ビジネス

独コメルツ銀、第3四半期は予想に反して7.9%最終

ビジネス

グーグル、ドイツで過去最大の投資発表へ=経済紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中