最新記事

経済

投機に乗らずに心理を知って広義の「投資」を

2019年10月9日(水)11時30分
竹内幹(一橋大学大学院経済学研究科准教授)

投資とは本来、リスクも引き受けながら付加価値をつくり出す経済活動に参画することだが ISSEI KATOーREUTERS

<自信過剰なあなたに伝えたい心理的傾向と投資に宿る本当の意味>

金融市場における「投資」とは、生産活動の一部を担うことだと思えばよい。

株式投資で言えば、株式保有はその会社やその生産設備の一部を所有すること。その会社が顧客のニーズを満たし利益を上げれば、その配分を受ける。それは配当金として直接配分されたり、その会社の価値が上がり株価が上がるという形で還元されたりする。

過去の長期的平均では、株式投資の利回りは年率4%から8%が相場だ。ただし、会社が思わぬ事故に見舞われたり、不況となったりすれば、会社の業績が低迷し損をすることになる。投資とは、そうしたリスクも引き受けながら付加価値をつくり出す経済活動に参画することだ。

しかし「投機」は生産活動という実質を伴わず、ただ資産価格の値動きを追って利益を上げようとする行為だ。付加価値を生み出していないのだから資産の取り合いを行っているわけで、誰かの儲けは、そっくりそのまま誰かの損という「ゼロサムゲーム」である。

ごく一部に投機で継続的に儲ける人もいて羨望の的となるが、その裏には資産を失ってゲームから退場する人たちが多くいる。こうした投機には手を出さないのが賢明だ。

問題は資産価格の変動だ。資産を保有することは、その資産から発生する将来の利潤の受け取り権を持つことに等しい。従って資産価格は、それが将来にわたってどれだけの利潤を生むかという見込みに依存して変動する。

厄介なことに、例えば株価が上昇しても、そこに生産活動という実質が伴っているとは限らない。株の値上がりは単なる投機的取引によっても起きてしまうからだ。将来有望だから株価が上がっていると勘違いしてバブルに乗っているだけかもしれない。

この区別が意外に難しい。心理的バイアスに注意さらに注意すべきは、人は「自信過剰(overconfidence)」であることだ。自動車の運転技術を尋ねられた多くの人が「自分は平均以上」と答えてしまうように、自分だけは株の値動きを見切ることができると過信する。

そして、バブルが崩壊する前に売り抜けるつもりで結局失敗したり、底値で買うつもりで値下がり続ける株に手を出したりしてしまう。あなたが「自分は慎重だからそんな自信過剰の罠にははまらない」と思ったら、その思い自体が自信過剰かもしれない。

残念ながら、この心理的傾向を直すことは難しい。ただ、投資をするときには、自分がどういった見込みを持っているかを日記などに書いておき、それを事後的に確認する習慣は重要だ。行動経済学で「損失回避」と呼ばれる心理的傾向も、人が投資に向いていないことを裏付けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米エネルギー省、76億ドルの資金支援撤回 水素ハブ

ビジネス

消費者態度指数9月は2カ月連続改善、生鮮食品価格の

ビジネス

カナダ製造業PMI、9月は47.7 8カ月連続で節

ワールド

EU、鉄鋼輸入枠半減し関税50%に引き上げへ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」してしまったインコの動画にSNSは「爆笑の嵐」
  • 4
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 8
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 9
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 10
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かっ…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 4
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 7
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中