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投機に乗らずに心理を知って広義の「投資」を

2019年10月9日(水)11時30分
竹内幹(一橋大学大学院経済学研究科准教授)

短期的な価格変動を乗り越えて長期的な利益を得るのは、損失回避の性質を持つ多くの人にとって難しい。資産が値上がりして含み益が出ると、リスク回避度が高まることが多いので、利益が大きくなる前にすぐに売ってしまう。

反対に、含み損を抱えると人はむしろリスク愛好的になることが知られている。この場合、買値に戻るチャンスに賭けたくなり、株価が下がり続けても損切りできずに損失を膨らませてしまう。

こうした心理的傾向も自覚しておきたい。故ジョン・ケネス・ガルブレイス教授(ハーバード大学)の著作『バブルの物語』(邦訳・ダイヤモンド社)の副題は「Financial genius is beforethe fall(暴落の前に天才がいる)」となっている。

彼によると、バブル崩壊の前に金融の天才がいるのだが、それはバブル崩壊を見抜いた天才のことではなく、金融において「革新的な技術」を発明した天才を指す。バブルは、本当は実質的価値のないものに「価値」が吹き込まれたときに発生しやすい。

天才たちの発明した「革新的な技術」も、実は価値のないものに価値があるかのように見せ掛ける仕掛けにすぎない。それが古今東西、手を替え品を替え、何度もバブルを発生させ金融市場を混乱させてきたというのだ。

例えば100年に1度の不況と言われたリーマン・ショックも同様だ。そもそもは返済能力のない人に住宅ローンを貸し付け、その債権を革新的な技術でもってリスクがないかのように粉飾したことで、不良債権が制御不能になるまで膨れ上がった。新しい技術が旧世界を変えるという期待は、2000年に崩壊したドットコム・バブルのように、バブルを生み出しやすい。くれぐれも慎重になりたい。

本当に大事な投資とは

投機に手を出さず、バブルにも乗らず、短期の価格変動に左右されず株式を長期間待てば平均年率4~8%程度の収益を見込める。また、徐々に物価が上がっていくインフレを忘れてはならない。

インフレがあるときには現金の実質価値は徐々に下がってしまう。その有効な対策が株式保有であったことは間違いない。長期投資は賢明な選択と言えよう。

ただし、ケインズの言う「In the long run we are all dead(長期にはわれわれは皆、生きてはいない)」のとおりで、バブル崩壊直前に金融商品を買ってしまった場合、それが買値に戻るときにはもう生きていないかもしれない。

例えば、リーマン・ショック前の07年10月9日にダウ平均株価は1万4165ドルまで上がったが、09年3月9日には6547ドルまで下がった。

元の価格に回復したのは13年3月であり、およそ6年間は大きな含み損を抱えることになった。ドットコム・バブルでもナスダック(米店頭市場)総合指数は00年3月に高値を付けてから2年7カ月間下落し続けた。

8割下がったところが底値だが、元の水準に回復するまでさらに13年を要した。長期投資を続けるには、このような価格変動から来る心理的負担を乗り越える覚悟が必要だ。

そのためにも長期投資のタイムスパンを正しく理解しておきたい。以上は金融投資の話だが、広義に「投資」とは将来のために今なにかすることである。

すると、年利数%程度のために金融ポートフォリオを組むことだけが投資ではない。将来を考えて、能力、教養、健康、家族、人間関係、思い出などのポートフォリオを構築することのほうがはるかに有意義な投資活動だ。

自己研鑽、家族との時間、友人との交流、地域コミュニティーへの貢献などの活動を、短期的な見返りを求めずに楽しむことも重要なのかもしれない。

長期的に豊かで幸せな人生を全うするための知恵は、そこにこそあるはずだ。

<本誌2019年10月8日号掲載>

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