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ブレグジット混乱:両陣営の「正義」の穴と、最も可能性の高いシナリオ

Brexit: A Battle Over Democracy

2019年9月10日(火)11時00分
ジョシュア・キーティング

その一方で、ジョンソンの主張も民主主義を擁護しているとは言い難い。2016年の国民投票で問われたのは、「イギリスは欧州連合に加盟国として残留するべきか、それとも離脱するべきか」だけであり、離脱の条件には一切言及していない。その条件を決める作業は、政治家に任されたのだ。

「民主主義」という口実

2017年の総選挙で、イギリスの有権者はその作業に当たる政治家を選ぶ機会を得た。その結果、保守党主導の連立政権が(辛うじて)誕生したが、議員の大多数は離脱をしたくないか、合意なしでの離脱には反対だ。

ジョンソンは、2016年の国民投票の結果を実行するためには、2017年に国民が選んだ議員の意見は無視しなければならないと言っているに等しい(ジョンソン自身、国民によって首相に直接選ばれたわけではなく、保守党の党員つまり全国民の0.2%に選ばれたにすぎない)。

しかも民主主義を尊重するために、何が何でもEUを離脱しなければならないというなら、そして、もし不完全な離脱でも離脱とりやめよりはましだというなら、ジョンソンら離脱派は、メイがまとめた離脱協定案を支持できたはずだ。しかし議会は今年に入り、これを3回も否決した。

その理由は、離脱後の移行期間中にEUと貿易協定がまとまらない場合に備えたバックストップ条項(EU加盟国であるアイルランドと、イギリスの一部である北アイルランドの間に物理的な国境管理を設けないために、イギリスが関税同盟に残留するという内容)が、「非民主主義的」だからと言う。

だが、離脱後にイギリスがEUやアメリカなどと結ぶことになる自由貿易協定は、多かれ少なかれ通商政策に対する「主権」の一部を手放すものだ。EUの関税同盟を離脱しても、結局はWTOが定める最恵国待遇や輸入関税率に縛られる。

離脱派は、2016年の国民投票に向けたキャンペーンを始めた当初から、選挙で選ばれたわけではないEU官僚から「主権を取り戻す」と訴えたほうが、経済的な効果を訴えるよりも有権者
に響くと考えていた(残留派は経済面を強調した)。

新たな総選挙は不可避か

EUは設立理念こそリベラルだが、民主主義的なシステムに基づく正統性という点では問題を抱えている。それにもかかわらず、共通市場や単一通貨の導入といった経済面や、共通外交や安全保障といった政治面での「統合の深化」は、加盟国の拒絶に何度も遭ってきたのに、着々と進められてきた。

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