最新記事

イギリス

ブレグジット混乱:両陣営の「正義」の穴と、最も可能性の高いシナリオ

Brexit: A Battle Over Democracy

2019年9月10日(火)11時00分
ジョシュア・キーティング

その一方で彼は自分こそ民主主義の擁護者だと訴え、首相就任後初の議会演説では「民主主義への信頼を回復し、EUを離脱して議会が国民に示してきた約束を履行する」と誓った。

要するに、根源的に問われているのは「現代民主主義」に対する考え方だ。それは国民が政策を決定するシステムのことなのか、それとも国民が選出した指導者に政策策定を託すシステムなのか。残念ながらブレグジットをめぐる論議では、国民が両方のやり方を実行し、その結果が正反対であるせいで話がごっちゃになっている。

ジョンソンの論拠は、2016年の国民投票で離脱支持者の割合が52%近くを占め、ブレグジットが決まったことにある。当初、離脱は3月29日の予定だったが、政治的迷走のせいで民意の実現が阻まれ続けているというのがジョンソンの主張だ。

だが残留支持派に言わせれば、テリーザ・メイ前首相がEUとまとめた離脱協定案であれ合意なき離脱であれ、現時点で提案されているシナリオは国民投票で問われたことではない。

「離脱派は『主権を取り戻す』一方で、EUに残留した場合と『全く同じ』恩恵を享受できると断言した......この約束は破られる。政府が約束を守らないのではなく、そもそも守れない約束だからだ」。ブレグジットについて国民投票の再実施を求める草の根運動「人民の投票」はそう主張している。

これは残留派が考えているほど説得力のある意見ではない。確かに、ジョンソンを含めた離脱派は国民投票前に誤解を招く言説を繰り広げた。とはいえそれを理由に投票結果を無効にできるなら、地球上に合法的な政府など、ほぼ存在しなくなる。

離脱支持者の大半がこれほどの混乱と分断を予想していなかったのは事実だろう。だがリスクを考慮した上で投票するのが有権者の責任であり、深刻なリスクがあると離脱派に納得させるのが残留派の責任だった。

だが今、残留派と「人民の投票」支持派の多くは事実上、「有権者は愚かな選択をしてしまったから、あの投票はなかったことにするべきだ」と主張している。2016年大統領選を経たアメリカ人として、筆者はその気持ちがとてもよく分かる。だがそれは、民主主義を否定することにほかならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資

ワールド

焦点:米中間選挙へ、民主党がキリスト教保守層にもア

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ワールド

中国、米国産大豆追加購入の可能性低下も 関税違憲判
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 2
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 5
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 10
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中