最新記事

ヘルス

運動後にマウスウォッシュすると身体の中で起きることとは?

2019年9月5日(木)17時45分
松岡由希子

唾液に含まれる口腔細菌に注目した...... mr_wilke-iStock

<イギリスとスペインの共同研究チームは、口腔細菌と運動後血圧に関する研究論文を発表した......>

運動した後に血圧が降下することは広く知られているが、「運動後低血圧(PEH)」の要因やメカニズムについては、まだ完全に解明されていない。

唾液に含まれる口腔細菌に注目した

英プリマス大学とスペインのゲノム調整センターとの共同研究チームは、2019年7月29日、学術雑誌「フリーラジカル・バイオロジー&メディシン」において、「口腔細菌による亜硝酸塩合成は、運動後の血管反応を促し、運動後低血圧をもたらす重要なメカニズムである」との研究論文を発表した。

運動していると、一酸化窒素の生成によって血管の直径が大きくなる「血管拡張」が起こり、筋肉への血液循環が増える。では、運動後、どのようにして血液循環が高いまま維持され、運動後低血圧を引き起こすのだろうか。

研究チームでは、一酸化窒素から分解された化合物である硝酸塩に着目。硝酸塩は、唾液腺に吸収され、唾液とともに排泄されるが、一部の口腔細菌によって、体内での一酸化窒素の生成を促す重要な分子である「亜硝酸塩」に転換される。亜硝酸塩が含まれた唾液を飲み込むと、この分子が素早く血液に吸収され、これによって一酸化窒素を生成し、血管の直径が大きくなって、運動後も血圧の下がった状態が続くというわけだ。

マウスウォッシュで口をすすいで口腔を殺菌してみると......

研究チームでは、「口腔細菌を阻害し、硝酸塩から亜硝酸塩への転換を妨げると、運動後低血圧に影響が及ぶのかどうか」を検証するべく、健康な成人23名を対象に実験を行った。30分間にわたって被験者にランニングマシンで運動させ、運動直後から30分ごとに計4回、液体で口をすすぐように指示。

口をすすぐための液体として、医薬用殺菌薬クロルヘキシジン(CHG)濃度0.2%の洗口剤とミントの香りをつけた水のいずれかを被験者に与えた。また、被験者の血圧を運動前と運動から1時間後および2時間後に測定するとともに、唾液と血液のサンプルを運動前および運動から2時間後に採取している。

水で口をすすいだ被験者は運動から1時間後に血圧が5.2mmHg下がり、2時間後でも3.8mmHg下がっていた。一方、洗口剤でうがいした被験者は、運動から1時間後の血圧が2.0mmHgしか下がらず、水で口をすすいだ被験者に比べて運動後低血圧の効果は61%低かったうえ、2時間後には運動後低血圧の効果がまったくみられなくなった。殺菌作用のある洗口剤で口をすすいだ被験者は、運動後、血液中の亜硝酸塩のレベルも上昇しなかったという。

あくまでこの結果だけみると、運動の後、血圧を下げたい場合は、運動後にはマウスウォッシュしないほうがいいということになる。

「口腔細菌による亜硝酸塩合成が非常に重要である」

研究論文の筆頭著者でプリマス大学の博士課程に在籍するクレッグ・カトラー氏は、「口腔細菌による亜硝酸塩合成が血圧降下や筋酸素化レベルの上昇を促すうえで非常に重要であることが示された」として、一連の研究成果を評価している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中