最新記事

教育

日本の教員は世界一の長時間労働なのに、そのうち授業時間は半分以下

2019年7月17日(水)17時10分
舞田敏彦(教育社会学者)

部活は教育課程外の課外活動で、他国にも似たような活動はあるが、教員が指導にあたることはあまりない。授業ではない課外活動のため、外部スタッフ等に委ねられる。<図3>は、主要国の中学校教員に週の課外活動指導時間を尋ねた結果だ。瑞はスウェーデン、芬はフィンランドを指す。

data190717-chart03.jpg

日本では41.7%が週10時間以上と答えているが、教員がこれだけの長時間を課外活動に割く国は他にない。0時間(ほぼノータッチ)の割合がかなり高く、スウェーデンやフィンランドでは8割の教員が「ゼロ」と回答している。北欧では、学校での部活という概念がない。日本の運動部のような活動は、地域のスポーツクラブ等に委ねられている。学校外と連携し、社会全体で子どもを育てる気風がある。

日本の教員は、様々な業務を担う「何でも屋」であるかのようだが、それが本務の授業に影響している可能性もある。日本では、生徒に考えさせる授業の実施頻度が低い。「明瞭な答えのない課題を出す」「批判的思考力が要る課題を出す」という項目に、「いつもする」「しばしばする」と答えた中学校教員の割合は2割にも満たない。

型にはめた後は、型を破らせることが必要になる。後者は、既存のものとは違う新しいものを生み出す力を育むことにつながる。こういう授業をするには入念な準備が要るが、日本の教員はあまりに忙しく、そのための時間を取るのも難しい。授業を「練る」余裕がない。新学習指導要領の目玉は「アクティブ・ラーニング」だが、教員が授業に注力できる環境を作る必要がある。

教育行政も手をこまねいているわけではない。2017年頃から教員の働き方改革の必要が言われ、具体的な動きも出ている。中学校教員の過重労働の原因となっている部活動については、部活動指導員というスタッフが法的に位置付けられた。単独で指導や大会引率を行える人材だ。

昨年3月にはスポーツ庁が「部活動ガイドライン」を出し、適切な休養日・休養期間を設けること、レクレーション的な部活も認めること、学校外のスポーツ団体や民間事業者等も活用することを提言している。学校が一手に担っている状況は大きく変わりそうだ。

さらに、これまで教員が担ってきた業務を仕分けし、教員が担う必要のない業務、教員の業務だが軽減可能な業務を洗い出している(2019年1月、中央教育審議会答申)。部活指導は前者、学習評価や成績処理は後者に該当する。AIにテストの採点をさせる実践も見られる。学校のICT化を進め、紙を大量に配る日常を脱したいものだ。

日本は、優秀な人材を教員に引き寄せることに成功している。しかし近年、教員採用試験の競争率は低下傾向にあり、小学校では3倍を下回る自治体が多い。民間が好景気だからと思われているが、「教員離れ」が起きている可能性もある。教員の働き方改革は、職務の専門性を明瞭にし、教員を高度専門職に昇華させる契機となる。これを進めない限り、他国と同様、優秀な人材は他の専門職に流れてしまうだろう。

<資料:OECD「TALIS 2018」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、13日に相互関税発表へ SNSに

ビジネス

ホンダと日産、経営統合の構想とん挫 子会社化案で合

ビジネス

日産、今期800億円の最終赤字予想 リストラ費用1

ワールド

ハマス、ガザ停戦合意の履行継続と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景から削減議論まで、7つの疑問に回答
  • 3
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観察方法や特徴を紹介
  • 4
    フェイク動画でUSAIDを攻撃...Xで拡散される「ロシア…
  • 5
    【クイズ】今日は満月...2月の満月が「スノームーン…
  • 6
    【クイズ】アメリカで「最も危険な都市」はどこ?
  • 7
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 8
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 9
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 10
    暗殺犯オズワルドのハンドラーだったとされるCIA工作…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮兵が拘束される衝撃シーン ウクライナ報道機関が公開
  • 4
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 5
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 6
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 9
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 10
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中