最新記事

ヘルス

英国の公的医療機関で採集した虫から抗生物質に耐性を持つ細菌が見つかる

2019年6月25日(火)19時00分
松岡由希子

採集した虫の9割で人体の健康を害するおそれのある細菌が...... Frogman1484 -iStock

<イギリスの研究チームが医療機関で昆虫約2万匹を採集し、これらに寄生する細菌を分析したところ、9割で人体の健康を害するおそれのある細菌が見つかった......>

私たちの身の回りには病原菌を媒介する虫が数多く存在する。病院のように清潔に保たれた環境ですら、虫を介して院内感染が広がるおそれがあることが明らかとなった。

医療機関で採取した昆虫の9割で健康を害するおそれのある細菌が見つかった

英アストン大学の研究チームは、2010年3月から2011年8月までの18ヶ月間、英国内の国民保健サービス(NHS)医療機関7カ所でハエやハチ、カメムシ、蛾など、昆虫1万9937匹を採集し、これらに寄生する細菌を分析した。

2019年6月21日に学術雑誌「ジャーナル・オブ・メディカル・エントモロジー」で公開した研究論文によると、採集した昆虫の9割で人体の健康を害するおそれのある細菌が見つかり、このうち、ハエ目の昆虫に寄生していた細菌の半数以上が抗生物質に耐性を持つこともわかった。

研究チームでは、医療機関内の一般病棟や産科病棟、新生児用施設、調理室で紫外線捕虫器や電撃殺虫器、粘着トラップを仕掛け、サンプルとなる昆虫を採集した。採集された昆虫のうち、ハエ目(双翅目)が全体の73.6%を占め、カメムシ目(半翅目)やハチ目(膜翅目)、チョウ目(鱗翅目)なども含まれていた。

また、ハエ目のサンプルから、86の細菌株が確認された。大腸菌やサルモネラなど、腸内細菌科に属するものが42%で最も多く、食中毒菌の一種セレウス菌を含むバシラス属、皮膚感染症や呼吸器感染症などを引き起こすおそれのある黄色ブドウ球菌などのブドウ球菌属も検出されている。

虫が病原菌を患者に媒介するリスクは低いが......

これら細菌株の52.9%には1種類以上の抗生物質への耐性があり、19%は複数種の抗生物質に耐性を持つ「多剤耐性」が認められた。ペニシリンに耐性を持つものが最も多く、バンコマイシンやレボフロキサシンなど、一般的に投与されている抗生物質に耐性を有するものもあったという。

研究論文の共同著者でもあるアストン大学のアンソニー・ヒルトン教授は「英国の国民保健サービス(NHS)医療機関は清潔な環境で管理されており、虫が病原菌を患者に媒介するリスクは低い」としたうえで「たとえ極めて清潔な環境であっても、虫によって細菌が病院内にもたらされないよう対策を講じることが重要だ」と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中