最新記事

ヘルス

自殺した人の脳に共通する特徴とは

Suicide on the Brain

2019年6月8日(土)15時30分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

自殺リスクが高い人は、否定的な情報を受け取ると過敏に反応する一方、肯定的な情報にはあまり反応しないようだ。そのため、世界を冷淡で敵対的な場と感じる傾向が強い。

「このような要因は全て自殺行動につながる」と、マンは説明する。「鬱症状をひときわ重く感じ、感情に突き動かされて行動しやすい上、行動の選択肢が少ししか目に入らず、周囲の人たちが批判的で冷たいように感じる傾向が強い。しかも、このような人たちは、自分がほかの人たちとは違うことに気付いていない。不幸なことに、自らのリスクを認識できていない」

メリーランド大学医学大学院のトッド・グールド准教授(精神医学)によれば、自殺の神経学的原因を研究している研究者は、問題を2つの段階に分けて考えることが多い。自殺しようと考える段階と、その行動を実行に移す段階である。

人生は生きるに値しないという思いは鬱に伴うことが多いと、グールドは言う。だがこうした感情に従って行動するかは、衝動性や決断に関わる脳内の生物学的回路が大きく左右する。

死にたいと思っても、多くの人は実行には移さない。家族や友人が受けるショックを考え、リスクと便益をはかりに掛けて、コストが大き過ぎると判断する。

一方、自殺傾向があると、結果が持つ意味をよく考える前に行動しがちだ。「自殺したいという思いがそのまま行動に結び付くように見受けられる」と、グールドは語る。「多くの場合、それは衝動的な行為だ」

単語6つで分かるリスク

攻撃性も要因の1つであるようだ。精神分析の創始者ジークムント・フロイト以来、自殺は内に向けられた攻撃性だと捉えられていると、グールドは指摘する。鬱病患者の自殺率減少にはリチウム塩の投与が効果的だが、原因はリチウム塩が衝動性や攻撃性に関わる脳内回路に働き掛けるためであることを示す研究が増えているという。

麻酔薬として広く使用されているケタミンが自殺願望を急激に低下させることも判明している。米食品医薬品局(FDA)は今年3月、ケタミンを用いた処方治療薬の承認を発表した。

最善の対策として見解が広く一致するのが、自殺リスクを確かめるスクリーニング検査だ。どんな人も最低でも1年に1度は検査を受けるべきだと、コロンビア大学のマンは提唱。「人生は生きるに値すると思いますか」といった質問をするだけでも、判定に大きく役立つ場合があると話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー、EV課税拡大を計画 米テスラ大衆向けモ

ビジネス

アングル:関西の電鉄・建設株が急伸、自民と協議入り

ビジネス

EUとスペイン、トランプ氏の関税警告を一蹴 防衛費

ビジネス

英、ロシア2大石油会社に制裁 「影の船団」標的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中