最新記事

サイエンス

セックスは癌感染から身を守るために進化した

Sex Evolved Because It Protects Against Rare Contagious Cancers: Scientists

2019年6月7日(金)16時30分
カシュミラ・ガンダー

生物学界の50年来の謎が解けた? ugurhan/iStock.

<生物の進化の過程でセックス(有性生殖)が広がったのは、感染性腫瘍への抵抗力を高めるためだったという新説が>

セックスはリスキーな行為だ。それでも人間を含む多くの生命体がセックスをする。それは一部には、感染するタイプの癌から体を守るためだった可能性があるという新説を、今月ある研究グループが提起した。

無性生殖にパートナーは必要ないので、有性生殖よりはるかに効率的だ。一方有性生殖にも様々なメリットがある。両性からの遺伝子を半分ずつ引き継ぐため、突然変異を起こした有害な遺伝子をそのまま親からもらうのを防ぐことができるし、兄弟であっても一人ひとり違う個体なので、種としての病原体や寄生虫への抵抗力も強まる。

学術誌「PLOSバイオロジー」に掲載された論文で今月、なぜマッシュルームからヒトまで多様な生物の99%が有性生殖を選んだのか、という生物学界の50年来の疑問に答え得る新説が紹介された。

論文は、セックス(有性生殖)は「詐欺師細胞」とも呼ばれる感染性の癌を抑止できると主張する。現在では癌そのものが感染する癌は極めて稀で、イヌやタスマニアデビル、水中に生息する二枚貝などごく限られた生物にしか見られない。

セックスの背景に自然選択の作用

生命体は、悪性細胞が増殖して制御不能になる癌という病気を防ぐべく進化してきた。免疫系による攻撃もその一つだ。

だが初期の多細胞生命体は、生き残って子孫を残すためには体の内外の癌感染と戦わなければならなかった。しかし無性生殖の場合は自分と同一の生命体を作るため、癌に冒されるリスクが高い、と研究グループは考えた。

有性生殖なら、親が感染症にかかる可能性を減らすだけでなく、子供にうつす可能性も低くなる。その上、感染性の癌細胞は有性生殖の生命体の細胞と相性が悪く増殖しにくい。免疫系の攻撃を受けるからだ。

論文の共著者で、フランス国立開発研究所のフレデリック・トーマスは本誌の取材に対して「自然界で有性生殖の比率が圧倒的に高いのは、セックスの進化の背景にある自然選択の作用が強力だったことを示唆している」と、語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中