最新記事

宗教

「聖地火災」を西欧・イスラム協力の契機に

Repairing Our Sacred Spaces

2019年5月18日(土)15時00分
クレイグ・コンシダイン(米ライス大学講師)

炎に包まれるパリのノートルダム大聖堂 Benoit Tessier-REUTERS

<ノートルダム大聖堂とエルサレムのアル・アクサー・モスク、2つの火災はキリスト教徒とイスラム教徒に共通の感情を抱かせた>

4月15日午後、パリのノートルダム大聖堂が炎に包まれ、尖塔と屋根が崩落――世界に衝撃を与えたこのニュースとほぼ同時刻、約3300キロ離れたエルサレムのアル・アクサー・モスクでも火災が起きていた。

こちらは報道の扱いも被害も、ずっと小さかった。だが長い歴史を持つ大聖堂とモスクの悲劇的火災は、2つの重要な建造物に人々の注意を引きつける出来事だった。キリスト教徒とイスラム教徒は今こそ共通の人間性に思いをはせ、協力して聖なる施設の修復に取り組むべきだ。

バチカンのサンピエトロ大聖堂を別にすれば、ノートルダムはおそらく世界で最も崇敬を集める大聖堂だろう。アル・アクサーは、メッカの大モスク(マスジド・ハラーム)とメディナの預言者のモスク(マスジド・ナバウィ)に次ぐ、イスラム教第3の聖地だ。

苦難に耐え抜いた歴史

幸い、ノートルダムにあったカトリックの2つの聖遺物、いばらの冠と十字架の一部は無事だった。エルサレムの神殿の丘(アラビア語ではハラーム・アッシャリーフ)に立つアル・アクサーでも、報道によれば深刻な被害が出たのは移動式の警備員ブースだけだった。

2件の火災がきっかけで注目を集めているのは、物理的な建造物そのものだけではない。ノートルダム大聖堂とアル・アクサー・モスクは、キリスト教とイスラム教それぞれの歴史における挑戦と希望の象徴だ。

ノートルダムは欧州大陸におけるキリスト教信仰のシンボルであり、パリ大司教の司教座聖堂でもある。アル・アクサーは、預言者ムハンマドが一夜の昇天の旅を体験したとされる場所であり、聖地におけるイスラム信仰の永続的な象徴だ。

ノートルダムは何世紀もの間、外国や革命派、世俗勢力の圧力を受け続けてきた。ローマ教皇アレクサンドル3世によって最初に礎石が置かれたのは1163年。1431年にはイングランド王ヘンリー6世の(フランス王としての)戴冠の儀式がここで行われた。

16世紀にはユグノー教徒(カルバン派)の襲撃を受け、1789年のフランス革命直後にも暴徒の破壊にさらされ、「理性の殿堂」と改称された。第二次大戦中のパリはナチスによる占領も経験した。ノートルダムはまた、ナポレオンの皇帝戴冠の舞台であり、1909年にジャンヌ・ダルクが教皇ピウス10世によって聖人に次ぐ福者の地位に列せられた場所でもある。

ノートルダムは歴史上の全ての苦難に耐え抜いてきた。大聖堂の建物が象徴するのはキリスト教の信仰だけではない。フランス人の不屈の精神や愛国心、人間性のシンボルでもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円・ユーロで週間上昇へ 貿易

ビジネス

米国株式市場=米中協議控え小動き、トランプ氏の関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中