最新記事

中国

G7切り崩す習近平「古代シルクロードの両端は中国とイタリア」

2019年3月26日(火)15時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国の習近平国家主席とイタリアのコンテ首相 Yara Nardi-REUTERS

イタリアを訪問し「一帯一路」協力の署名に漕ぎ着けた習近平国家主席は、イタリアの港湾を掌握して中華帝国の完成を狙っている。ヨーロッパ23ヵ国は既に「一帯一路」協力を表明しており、残るはG7の切り崩しだけだった。

「古代シルクロードの両端は中国とイタリア」

3月21日にイタリアの首都ローマに到着した習近平国家主席は、22日にマッタレッラ大統領による盛大な歓迎式典を受け、23日にはコンテ首相と会談した。

その席で習近平は「古代シルクロードの両端は中国とイタリアだった。両国の歴史は2000年以上前に遡ることができる。われわれは今、そのシルクロードに新しい活力を漲(みなぎ)らせようとしている」と切り出した。

かつてのローマを出発点として西安まで連なっていたシルクロードで絶対的権勢を誇っていたのはローマ帝国だった。しかしいま北京を始点として西へ西へと広がりを見せながら、その終点をローマにまで伸ばそうとしている「陸と海のシルクロード」(一帯一路)を支配しているのは「チャイナ・マネー」だ。

特にイタリアは「2008年~2009年、そして2012年~2014年と2回にわたる経済危機に陥っており、昨年はEU諸国の中でGDP成長率が最も低く、EU諸国の足を引っ張っているとさえ言える」と、中国の中央テレビ局CCTVは解説している。それによれば、2000年~2018年のイタリアのGDP成長率は年平均0.2%と、ほぼゼロ成長にまで落ち込み、EU全体の過去10年の平均である2%を遥かに下回っているとのこと。したがって中国がイタリアに手を差し伸べるということが、イタリア経済にとって、どれだけ恩恵を与えることかと、CCTVは誇らしげに分析した。

こうして23日、イタリアは「一帯一路」に参画する覚書に署名した。

中国が目指すのはアドリア海に面するイタリアのトリエステ港だ。

この戦略的拠点を押さえさえすれば、ローマ帝国を中心に栄えた「古代シルクロード」は、中華帝国を中心に制覇しようとしている「新時代のシルクロード」となり、中国は「一帯一路」戦略をほぼ完成させることができる。これこそは「中華民族の偉大なる復興」を実現する大きな要の一つなのである。

覚書ではトリエステ港の港湾整備に中国企業が参入することなど、20数項目のプロジェクトが締結され、その規模は200億ユーロ(約2.5兆円)に上るとのこと。昨年8月に大崩落事故を起こしたジェノバ橋に代表されるように、財政難にあえぐ、リグリア海に面するジェノバ港も中国の手中に落ちて、中華帝国「新時代のシルクロード」の終点を飾ることだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

財新・中国製造業PMI、6月は50回復 新規受注増

ビジネス

マクロスコープ:賃金の地域格差「雪だるま式」、トラ

ビジネス

25年路線価は2.7%上昇、4年連続プラス 景気回

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中