最新記事

神経細胞

「脳組織は切断されても情報伝達できる」:ニューロンの新しい情報伝達方法発見

2019年2月28日(木)17時40分
松岡由希子

2つの海馬の断片をすぐそばに置くだけでニューロンの活動が伝達された bestdesigns - iStock

<米ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究者によって、ニューロンの新しい情報伝達方法が見つかった。脳組織が切断されていても情報伝達できる可能性があり研究チームを驚かせた>

従来、ニューロン(神経細胞)の活動は、感覚(入力)と運動(出力)のフレームワークのもとで研究がすすめられ、シナプス伝達、軸索輸送、ギャップ結合といった情報伝達のメカニズムが解明されてきた。そして、このほど、従来のフレームワークによらない、ニューロンの新しい情報伝達方法が見つかった。

自ら電場をつくり出して自己伝播波を生成する

米ケース・ウェスタン・リザーブ大学ドミニク・デュラン博士の研究チームは、断頭したマウスから海馬を取り出し、スライス状にして脳波を観察した。その結果、ゆっくりとした周期的活動が確認され、これによって電場を生成して周囲の細胞を活性化させ、シナプス伝達やギャップ結合によらずに情報を伝達しることがわかった。この研究成果は、学術雑誌「ジャーナル・オブ・フィジオロジー」で公開されている。

多くのニューロンが同時に発火すると弱い電場を生成することはすでに知られていたが、その電場は弱く、ニューロンの活動に寄与するものではないと考えられてきた。

しかし、この研究結果は、電場が細胞を興奮させるだけでなく、自ら電場をつくり出してニューロン活動の自己伝播波を生成することを示した。研究チームでは、これを「エファシス結合」と呼んでいる。

2つの海馬の断片をすぐそばに置くだけでニューロンの活動が伝達

とりわけ研究チームを驚かせたのは、脳組織が切断されていてもこの"波"が伝播した点だ。2つの海馬の断片をすぐそばに置くだけでニューロンの活動が伝達された。

この現象は海馬回路のコンピュータモデルでも裏付けられている。研究論文の掲載にあたって「ジャーナル・オブ・フィジオロジー」の編集委員会からの要請により、一連の研究成果を再点検するべく実験を繰り返したが、結果は同じだった。研究チームでは「この現象を説明できるのはエファシス結合だけだ」と結論づけている。

脳が生成する電場がどのような役割を担っているのかは、まだ明らかになっていない。マウスの海馬で認められたエファシス結合がヒトの脳でも起こっているのかについてもさらなる研究が必要だ。

とはいえ、この研究結果は、脳のプロセスや脳障害にまつわるニューロンの活動を解明するうえでも一定の意義を持つものとして注目されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中