最新記事

宇宙開発

イプシロン4号機が実証した「ライドシェア」という潮流

2019年1月30日(水)17時30分
秋山文野

イプシロンロケット4号機による革新的衛星技術実証1号機の打ち上げ :JAXA

<宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げたイプシロンロケット4号機は、公募で選ばれた7機の衛星の軌道投入が成功。このライドシェア方式が今世界で注目されている>

2019年1月18日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から、イプシロンロケット4号機が打ち上げられた。イプシロンロケットでは初の複数衛星の打ち上げで、打ち上げから1時間10分かけて衛星を次々と分離し、アクセルスペース社の地球観測衛星RAPIS-1(ラピス1)を始め、7機の衛星が軌道投入に成功した。

7機の衛星はどれも健全に機能しており、打ち上げ当日の午後8時20分過ぎには、慶応大学が運用する超小型衛星マイクロドラゴンが衛星の状態が健全であることを示す信号を送信してきた。翌19日に、JAXAは全衛星の軌道投入が成功したと発表した。

複数の衛星を搭載し、軌道投入する「ライドシェア」

このように、1機のロケットに複数の衛星を搭載し、軌道投入する打ち上げを「ライドシェア」と呼ぶ。同じ複数衛星の搭載打ち上げでも、大型の衛星を軌道投入する際に余った搭載能力を小型の衛星に提供する方式は「ピギーバック」だ。ライドシェアの場合、衛星どうしの関係は比較的対等で、同じ軌道を目的とする衛星同士の乗り合いだが、ピギーバックの場合はあくまでも大型衛星が主であり、小型の副衛星側の都合を優先するわけにはいかない。

今回のイプシロン4号機の場合、衛星側の取りまとめ役であるJAXAの香河英史革新的衛星技術実証グループ長が打ち上げ後記者会見で「ラピス1は比較的『宇宙に行ければよい』という希望だったので、海洋観測を行うマイクロドラゴンの希望に合わせて行き先(目標となる軌道)を決めた」と述べている。

ラピス1はJAXAが開発、運用をアクセルスペースに依頼した今回の打ち上げの主衛星といえるが、相乗り衛星に合わせて軌道を決めたということは、各衛星の希望を調整して打ち上げるライドシェア型といえる。香河グループ長が自らの役割を「衛星同士のツアーコンダクター」と表現するゆえんだ。

akiyama0130b.jpg

アクセルスペース社の地球観測衛星RAPIS-1 クレジット:JAXA

イプシロンロケット4号機シーケンスCG映像 JAXA


インドのPSLVロケットは104機の人工衛星を軌道投入して記録に

こうした打ち上げ方式はJAXAが初めてではない。アメリカのエアロスペース・コーポレーションによれば、1967年に米軍の測位技術実証衛星SECOR 9とライス大学のオーロラ観測衛星Aurora 1が同じロケットで打ち上げられた事例がライドシェアの始まりとされる。旧ソ連のミサイルを転用したロケットでも行われており、2017年にはインドのPSLVロケットが超小型衛星を含め104機の人工衛星を軌道投入して記録を作った。2018年12月には、スペースX社のFalcon 9ロケットはフィンランドとアメリカの企業のレーダー地球観測衛星など64機の衛星を打ち上げた。

ライドシェア型の打ち上げは、小型〜超小型衛星にとって少ない費用で安定した大型ロケットの搭載枠を手に入れられるという意味で重要な打ち上げ機会だ。ロケット側にとっては、シェア機会を提供することで、数の少ない静止通信衛星のような大型で高額の衛星だけでなく、2022年までに世界で2000機以上打ち上げられると予測される超小型衛星の需要をビジネスに取り込める。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、司法省にエプスタイン氏と民主党関係者の

ワールド

ロ、25年に滑空弾12万発製造か 射程400キロ延

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

米政権特使、ハマス副代表と近日中に会談へ=米紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中