最新記事

宇宙開発

イプシロン4号機が実証した「ライドシェア」という潮流

2019年1月30日(水)17時30分
秋山文野

とはいえ、対等な立場で多数の衛星に乗ってもらうには、ロケット側によるさまざまな調整が必要だ。軌道や座席にあたる打ち上げ枠、"乗り心地"に関する情報をしっかり開示しなくてはならない。搭載できる衛星のサイズ、ロケット上段に衛星を取り付けるインターフェイスの種類なども大切だ。需要が高い10センチ角の規格化された超小型衛星キューブサット向けには、衛星を収納するケースとしてどの方式が利用できるのか、といった情報も必要になる。

JAXAは日本語、英語のユーザーズマニュアルを公開し、衛星取り付けのインターフェイスに世界のロケットで実績を持つLightbandを使用していること、キューブサット収納用には国際宇宙ステーションからのキューブサット放出で日本がこれまで使用してきたJ-SSODを改良したE-SSODを使用しといった情報を公開している。ライドシェア打ち上げに統一規格があるわけではないが、これまで海外の他のロケットを利用してきたオペレーターにとって安心できるやり方だといえる。

ライドシェア打ち上げ機会はあと3回

イプシロンロケットによるライドシェア打ち上げ機会は「革新的衛星技術実証プログラム」と呼ばれており、あと3回チャンスがある。機会を待っている衛星オペレーターは日本国内に多数あり、すでに2号機には33の提案から、超小型衛星・キューブサット7機が選定された。第1回打ち上げの衛星が7機とも無事に軌道投入できたことで、イプシロンロケットはライドシェアを成功させた実績を持つことになった。成功はさらなる関心を呼ぶと考えられる。

ただし、イプシロンがライドシェアという潮流を掴んで世界で求められるランチャーにすぐなれるかというと、そうではないと思える。JAXAの山川宏理事長は、革新的衛星技術実証の募集はあくまでも日本国内の組織が代表となる衛星に限られ、世界に向けた展開については「今後の課題」とコメントするにとどめた。

欧州のVEGAロケットもライドシェアに参入

一方で、イプシロンと同クラスの小型ロケット、欧州のVEGA(ヴェガ)ロケットは2019年に1〜400キログラムの衛星を搭載するSSMS(小型宇宙機ミッションサービス)ライドシェア打ち上げの実証を行う。ヴェガロケットを運用する欧州アリアンスペース社の東京事務所代表、高松聖司氏によれば、「募集開始からすぐに打ち上げ枠は埋まった」といい、ヴェガロケットがライドシェア打ち上げに乗り出すことで世界の衛星オペレーターの注目を集めていることがうかがえる。

akiyama0130d.jpg

アリアンスペース社東京事務所代表、高松聖司氏。撮影:小林伸

SSMS POCには、Facebookの通信実験衛星アテナが搭載されることも注目に値する。アテナは衛星通信ではまだ実用化されていない高周波数帯の通信実験を予定しており、こうした実験的な小型衛星に打ち上げ費用の安いライドシェアは適している。

ヴェガはイプシロンと同様に、H-IIAやFalcon 9といった大型のロケットよりは小さく、ライドシェアの場合でもそれほど多数の衛星を搭載できるわけではない。だが、イプシロンが搭載衛星数7機に留まるのに対しヴェガは10機以上が予定され、2019年中には搭載能力を増強した新型VEGAもデビューする予定だ。さらに、2020年に初打ち上げ予定の欧州の大型ロケット「アリアン6」にもヴェガで実証したライドシェア衛星放出機構を搭載することになっている。着々と小型衛星の打ち上げビジネスを取り込んでいく道すじが欧州の場合、見えているのだ。

いち早く衛星放出の技術実証では実績を上げたものの、将来、世界に対して打ち上げ機会が提供されるのか不透明なイプシロンと、実証はこれからだがコンセプトが開かれているヴェガ。ライドシェアという需要を掴むには、日本でまだまだやらなければならないことは多いように思える。


11-9-2018-VV13-2.jpg

2018年11月に打ち上げられたアリアンスペース社のVEGAロケットと衛星搭載部分の作業。クレジット:Arianespace

11-20-2018-VV13-success-launch-hr.jpg

VEGAはイプシロンと同様の小型衛星向けロケットだが、2019年には能力増強の新型が登場する。
クレジット:Arianespace

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増

ビジネス

米大手銀、最優遇貸出金利引き下げ FRB利下げ受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中