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就職氷河期世代を襲う「セルフ・ネグレクト」 自らの健康を蝕む「緩慢な自殺」とは?

2018年12月20日(木)19時23分
菅野 久美子(フリーライター) *東洋経済オンラインからの転載

「近所の人が『あそこのお家、ちょっとおかしいのよね。最近見かけないのよね』ということがあると、『行ってみてくれない?』と言われて最初に見に行くのが、民生委員なんです。それで実際に孤独死された方を見つけた民生委員もいますよ。私も、訪問するなどして関わっていた方が孤独死で亡くなられることがありました」

徳山さんはその現状について語った。

徳山さんによると、見守りといっても、基本的にほとんどの世帯は1年に1度。そのような頻度だと民生委員が訪問している家だとしても、孤独死が発生しても何らおかしくない。現に徳山さんが見守りに関わった高齢者のうち3人が孤独死している。

徳山さんが遭遇した孤独死のうち、1人は80代の単身でゴミ屋敷に暮らす、おばあさんだった。そこは前々から、近所で有名なゴミ屋敷であった。前日に、おばあさんが家で倒れているところを近所の人が見つけて救急車を呼んだ。しかし、救急車に乗ることは絶対に嫌だと拒否したのだという。

「『私はここで死んでもかまわない』『人に迷惑かけたくない』って言うんですよ。しっかりしたおばあちゃんで、普段は買い物も自分で行ってたみたいなんです。でも、夏の暑い時に熱中症か何かで倒れてて、救急車を呼んだんですけど、乗らなかった。

その数日後に、孤独死してたんです。クーラーがなくて、窓を開けて、お風呂もないおうちだったんですよ。心配して近所の方が訪ねていくとダニだらけだったみたいで。それでも最後まで、絶対人さまには頼りたくないって言ってましたね」

セルフ・ネグレクトの特徴として、ゴミ屋敷だけでなく、必要な医療やケアを拒否するケースが多い。ニッセイ基礎研究所が地域包括支援センターへ行ったアンケートによれば、「孤立死(孤独死)」事例の約5割に医療や福祉の拒否が見られた。

ニッセイ基礎研究所は、孤立死とセルフ・ネグレクトの関係について、興味深い研究を行っている。

同研究所の研究で、全国の市区町村を通じて「生活保護担当課」と「地域包括支援センター」で把握している孤立死事例を収集したところ、その中で、孤立死の8割は何らかのセルフ・ネグレクトだったという事実が明らかになった。

命をおびやかすセルフ・ネグレクト

セルフ・ネグレクトには、認知症のような病気によって正常な判断力や意欲が低下していることによる場合と、判断力などは低下していないものの、本人の意思によってなる場合の2種類がある。しかし、自分の心身の安全が脅かされるという意味では、陥っている状況は同じである。同研究所主任研究員の井上智紀さんは語る。

「私たちの研究では、孤立死の8割の事例にセルフ・ネグレクトと思われるような症状が確認できたんです。ゴミ屋敷はとてもわかりやすいセルフ・ネグレクトの例ですが、そのほかにも十分な食事を取っていないとか、何日も入浴や洗濯していないとか、排泄物の放置、あるいは医療の拒否などですね。あとは、家が猫屋敷になっていたりとか、さまざまなケースがあり、これらが複合的に絡まり合っている場合もあります」

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