最新記事

宇宙開発

ソユーズ打ち上げ失敗、有人ロケットをロシアに依存してきた各国の宇宙計画のあやうさ

2018年10月17日(水)19時00分
鳥嶋真也

折しも、昨今のロシアの宇宙開発は、ロケットの打ち上げ失敗や衛星の故障といったトラブルが相次いでいる。その理由として、ロシア連邦誕生以来の予算不足による後継者の不足やノウハウの継承の失敗、品質管理の不徹底といった技術力の低下が起こっていると考えられている。

その中で有人宇宙飛行ミッションだけは、人の命が失われるほどの大きな事故は起こっていなかった。これは、有人ミッションに限ってはとくに念入りに製造、検査をしているからとされている。

もちろん、それにより摘まれたトラブルの種もあったのは事実だろう。しかしそれでも、太陽電池が開かなかったり、ドッキングに使うシステムが故障したりといった、一歩間違えれば重大な事故になりかねないようなトラブルは何度か起きていた(参考)。

そして今回、その有人ミッションでついに大事故が起きてしまった。原因が判明していない以上断定はできないが、ロシア宇宙技術の弱体化の波が、いよいよ有人宇宙飛行をも本格的に侵食し始めたのかもしれない。

今回は脱出装置のおかげで、幸いにも宇宙飛行士の命は救われた。しかし、事故が起きた原因と背景を徹底的に洗い出し、後継者の育成や品質管理の徹底といった根本的な改善がなされない限り、こうした事故はまた起こりうるだろう。それも今度は、脱出装置も機能しないという、最悪の事態になるかもしれない。

torishima1015c.jpg

組み立て中のソユーズ・ロケット (C) Roskosmos

他国の有人宇宙計画へも影響

今回のソユーズ失敗の影響は、ロシアだけにとどまらない。

米国はスペース・シャトルの引退以来、独自の宇宙船を保有していないため、ISSへの宇宙飛行士の輸送はソユーズに依存した状態にある。日本や欧州の宇宙飛行士も、米国が購入するソユーズの座席枠を使って飛んでいるため、同じく依存状態にある。

そのため、ソユーズの飛行が再開されない限り、新たな宇宙飛行士がISSに行くことはできない。

また、現在ISSには3人の宇宙飛行士が滞在しているが、宇宙に滞在できる期間にも制限があり、2019年1月には帰還する必要がある。つまりそれまでにソユーズの飛行が再開されないと、ISSを無人で運用せざるを得ない事態となる。

ちなみに米国では、イーロン・マスク氏率いるスペースXと、大手航空宇宙メーカーのボーイングの2社が、新型宇宙船の開発に取り組んでいる。しかし、開発の遅れにより、人を乗せて飛べるようになるのは、早くとも2019年の春以降になる。

torishima1017d.jpg

国際宇宙ステーション (C) ISS

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏「欧州と戦争望まず」、戦う準備は完了

ビジネス

ユーロ圏インフレは目標付近で推移、米関税で物価上昇

ワールド

ウクライナのNATO加盟、現時点で合意なし=ルッテ

ワールド

紛争終結の可能性高まる、容易な決断なし=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中