最新記事

「儲かるエコ」の新潮流 サーキュラー・エコノミー

サーキュラー・エコノミー 世界に広がる「儲かるエコ」とは何か

THE CIRCULAR ECONOMY GOES MAINSTREAM

2018年10月10日(水)18時50分
ウィリアム・アンダーヒル(ジャーナリスト)

良い例がオランダのヘッドホン製造会社ジェラード・ストリート。ヘッドホンは故障や買い換えのため、毎年世界で1万5000トンが捨てられる。しかし同社は耐久性のある素材を使った部品を、簡単に分解できるように組み立てている。そのため部品の85%が新製品に再使用できる。

しかもジェラード社は生産だけでなく、顧客サービスも手掛けている。月会費は7.5ユーロで、使用中のヘッドホンと交換して新モデルも手に入るのだ。返却されたヘッドホンは分解され、使える部品が取り外される。まさにここでループは閉じられ、完全なサークルになるわけだ。

これは市場参加者の興味をかき立てるウィンウィンの方式だ。イギリスの新興企業ベルズ・アンド・ベイブズはベビー服のレンタル会社。ここでも定額の月会費で、子供が大きくなればサイズの合う新しい服と交換できる。返却された服はクリーニングされ、繕われ、別の幼児に渡される。最後は縫いぐるみ用の生地や詰め物として使われる。その先は? ベビー服の素材が全て生分解性のものになれば、サークルは完結する。

設立者は若い母親のエマ・ギレスピー。持続可能なライフスタイルの賛同者は増えていて、とりわけ自分の世代には多いと彼女は考えている。「サーキュラー・エコノミーにはとても興味があるので、自分でやりたかった。ごみ処理場に捨てられる衣服の量を知ったら、誰もがショックを受けるはず」。そう、今の時代、衣服は消耗品だ。毎年、ニューヨーク市だけで約20万トンの衣料品が廃棄されている。

捨てないという発想自体は目新しいものではない。環境保護の活動家は以前からリデュース(ごみ減らし)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)の「3R」を呼び掛けてきた。天然資源の生産性向上を重視する「ナチュラル・キャピタリズム」や、モノではなくサービスを売ろうと提唱する「パフォーマンス・エコノミー」、アメリカの建築家ウィリアム・マクドナーらが提唱する資源循環型の工業生産方式「ゆりかごからゆりかごへ」などの構想もある。

サーキュラー・エコノミーはごみを減らすだけでなく、ごみを出さないことを目指す。マッカーサーとも親しいマクドナーに言わせれば、「悪い習慣を減らすだけでは不十分だ。いくら減らしても、悪いことは悪い」。

この考え方は、強硬な環境保護活動家にありがちな自己否定を伴うものではない。「消費を減らせと言うのではない。問題は消費の在り方だ」と、デンマークの環境保護団体ステート・オブ・グリーンのフィン・モーテンセンは言う。重要なのは「誰かのごみは誰かの資源」という原則を徹底して尊重することだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中