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サイエンス

先延ばし癖は脳の構造のせいかも

The Brain and Procrastination

2018年9月14日(金)16時00分
アビー・インターランテ

CJMGRAFX/ISTOCKPHOTO

<物事をすぐに実行せずグズグズ後回しにする人は、脳の2つの部位に特徴があることが最新研究で判明>

物事をすぐ実行に移す人と、先延ばしにする人。両者の違いはどこからくるのか? 最新研究によれば、脳の特定部位に関係しているらしい。

独ルール大学ボーフム校の研究者らは、脳と性格の違いを明らかにするため264人を調査。サイコロジカル・サイエンス誌に8月に掲載されたこの研究では、やるべきことにすぐ取り組めるかどうかに影響を与える脳の2つの領域が特定された。

「すぐ実行派」か「先延ばし派」かを見極めるため、被験者には実行制御能力(思考や行動を制御する認知システム)を測定するテストを受けさせた。さらにMRI(磁気共鳴映像法)を用い、脳の特定領域の大きさや連結などを調べた。

脳の中でもアーモンド形の扁桃体は感情の形成で重要な役割を果たすが、この部位が大きい人は行動制御力が弱かった。加えて、扁桃体と前帯状皮質背側部との連結も、あまり顕著ではなかった。

前帯状皮質背側部は扁桃体から情報を受け取り、行動を決定するのを助ける。また、その行動にあらがう感情を抑えることで、選択した行動がうまく実行されるようにする。

一方、扁桃体は行動がもたらす結果を想定するだけでなく、悪い結果を警告する役割もある。だから、扁桃体が大きい人ほど実行をためらう傾向があるのも無理はない。研究者らは、扁桃体と前帯状皮質背側部の連結がうまくいかないと、実行力がそがれる可能性があることも指摘している。

「扁桃体が大きい人は悪い結果を心配しがちで、実行をためらい後回しにする傾向がある」と、研究チームのエルハン・ゲンチは言う。「さらに扁桃体と前帯状皮質背側部の連結が弱いと、悲観的な感情を制御できず、先延ばし傾向が悪化するかもしれない」

脳には適応する能力も

だが、こうした脳の特徴を持つ人が100%先延ばしタイプになるとは限らない。研究を率いたカロリーネ・シュルターは、脳には対応力があり、長い時間をかけて適応することができると指摘する。「行動を制御する能力は、心身の健康だけでなく私生活や仕事の成功にも影響する。だがこうした神経科学的基盤はまだ十分解明されていない」と、シュルターは言う。

とはいえ、先延ばし癖を軽減する方法もありそうだ。マインドフルネス瞑想には、扁桃体の神経細胞が集まるエリアを小さくする効果があるとされる。やるべきことから逃避したい感情に脳が支配されない程度にまで任務を細かく分けて、小さなことから始めるという手もある。

脳の特徴を言い訳にして、先延ばしの克服をいつまでも先延ばしにするわけにはいかないだろう。

[2018年9月18日号掲載]

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