最新記事

タイ

タイ洞窟の少年たちの中には、無国籍だが5カ国語を話す子どももいた

2018年7月13日(金)14時30分
ジェニ・フィンク

救出された少年たちは近くの病院で検査などを受けている Thai Government/REUTERS TV

<世界中の注目を浴びる存在だけに国籍も取得できる方向で動いているが、セレブにされてしまうことやPTSDなど不安もいろいろ。同じ悪夢を生き抜いた仲間と一生連絡を取り合うことが大事>

6月23日にタイ北部チェンライのタムルアン洞窟で大雨による増水のために動けなくなった少年サッカーチーム「ワイルド・ボーアズ」(イノシシの意味)のコーチとメンバー13人は、7月10日夜までに全員が救助され、現在は近くの病院で手当てを受けている。少年たちのこれからの将来はどうなるか、また普段の生活に戻るためにどんな支援が必要か、という新たな問題が浮上している。

米コロンビア大学講師のリチャード・アングルは、世界的な脚光を浴びた少年たちが「セレブ」にならないように注意が必要だと言う。少年たちがこの先もずっと「洞窟から救出された少年」として周囲に扱われると、それだけが唯一のアイデンティティーになってしまうからだ。

最初に洞窟で行方不明となり、捜索で見つかり、洞窟から出られないことがわかり、順番に救出され、遂には全員が無事に救出された。その全ての展開を通じて、世界中の人々の心を鷲掴みにした。少年たちの健康状態は良好と伝えられているが、心配なのは過酷な試練を乗り越えた後の精神面の健康だ。

【関連記事】タイ洞窟内の少年救出作戦開始 作戦成功祈る一方、早くも洞窟観光地化や映画化も
【関連記事】タイ洞窟のサッカー少年たち、心身を支える瞑想で耐えた9日間

メディアや政治家に気をつけろ

ノースカロライナ州ウィンストン・セーラムの精神科医ケン・ダナムによると、少年たちはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と鬱病、アルコール依存症という、災害の生存者が最もよく苦しめられる3つの症状が見られないか経過観察を受ける必要があるという。

また少年たちとコーチが生涯を通じて、お互いに連絡を取り合うことも重要だと言う。特殊な悪夢を生き抜いた経験を共有できるのはこの13人だけだからだ。

「極限状態の経験を共有する人物の存在と支援は、少年たちがこれから『通常』の生活を生きるうえでも助けになる」と、ダナムは話している。

2010年に起きたチリの鉱山の落盤事故で、坑道内に69日間閉じ込められた、当時の現場監督ルイス・ウルスアは、タイの少年達がしばらくの間、世間の注目から逃れられることは望ましいことだと話している。ロイターの取材に答えたウルスアは、少年たちがメディアや政治家、それに今回の出来事で金儲けを企む人々からの注目を一身に浴びることは困難な事態だ、と話している。

【関連記事】洞窟からの脱出を映画に!ハリウッドプロデューサーが早くも現地で聞き込み

しかしウルスアは、心の準備ができた時点で少年たちが体験を語ることをすすめている。「いつの日か、2~3年のうちに、彼らも体験談を話すことができるようになるだろう。我々もそうだったように、今回の出来事は、生き抜く信念と希望をどう持ち続けるか、という物語だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、8月の英販売台数が増加 EV市場拡大

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時4万3000円回復 米関

ビジネス

インタビュー:先端素材への成長投資加速、銅製錬は生

ワールド

韓日米、15日から年次合同演習実施 北朝鮮の脅威に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中