最新記事

情報収集衛星

米朝首脳会談の裏で、日本が打ち上げた事実上の「偵察衛星」の目的とは

2018年6月22日(金)19時10分
鳥嶋真也

もちろん、これは偵察衛星を運用する他国でも同様で、べつに日本だけが特殊というわけではない。しかし、情報収集衛星にはただ軍事基地などを偵察するだけでなく、「大規模災害への対応」も目的のひとつとなっている。これは情報収集衛星が、偵察衛星とは呼ばれない所以でもある。

だが、前述のように情報収集衛星の画像が公にされないことから、肝心の「大規模災害への対応」に支障が出ていたのも事実である。たとえば東日本大震災では、省庁や民間企業などに画像が提供されず、米国の民間企業が運用する地球観測衛星の画像を購入、利用したことが報じられている。

こうした問題や批判があったことから、内閣官房は2015年から、大規模災害が発生した際には、「衛星の性能がわからないように画像の解像度を落とした上で公開する」という方針を発表。同年、平成27年9月関東・東北豪雨が発生した際には、さっそく画像が公開された。

HIIA003.jpg

「平成27年9月関東・東北豪雨」の発生時、内閣官房が発表した情報収集衛星の撮影画像。衛星の性能がわからないよう、デジタル加工で解像度が落とされている (C) 内閣衛星情報センター

情報収集衛星の課題と揺らぐ意義

もっとも、これで情報収集衛星にまつわる課題が消えたわけではない。

たとえば北朝鮮問題が今後、解決に向けた進展を見せることになれば、その導入が決まった動機のひとつがなくなることになる。こうした国際情勢が変化していく中で、情報収集衛星の運用や体制をどうするかは、今後も課題になり続けるだろう。

また、地表を撮影できる衛星を、軍や情報機関しかもっていなかった時代は終わり、近年では多くの民間企業が衛星を保有し、撮影した画像を販売している。なかには、数多くの衛星を打ち上げることで、かつては不可能だった「ある場所を常時監視し続ける」ことを実現させようとしている企業もある。実現すれば、誰もが、いつでもどこでも、地球のあらゆる場所の様子を見ることができるようになるかもしれない。

こうした宇宙ビジネスの発展や技術革新といった流れは今後も止まらず、より高性能で、使いやすい方向へ進歩していくことだろう。そこにおいて情報収集衛星の意義は、少なくとも現在の形のままでは、失われていくことになる。

こうした時代や技術の変化に合わせて、情報収集衛星のあり方を、その目的に合わせ、性能やコスト・パフォーマンスをより良いものに変えていく必要があろう。

情報収集衛星打ち上げ成功 種子島、H2Aロケット

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア・ルクオイル、イラク事業で不可抗力条項宣言 

ワールド

インド7─9月期失業率は5.2%に改善 農村部で雇

ワールド

原油先物は反落、米政府閉鎖解消に期待も供給懸念が重

ビジネス

米パラマウント・スカイダンス、番組制作に来年15億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中