最新記事

北朝鮮

「拉致被害者は生きている!」──北で「拉致講義」を受けた李英和教授が証言

2018年6月11日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

こうして拉致問題は長いこと放置されたままになった。2002年の小泉訪朝が叶い、一部の拉致被害者を取り戻すことができたのは、5月7日付のコラム<中国、対日微笑外交の裏――中国は早くから北の「中国外し」を知っていた>に書いたように、新義州(シニジュ、しんぎしゅう)特区の経済開発において中国と対立したからである。だから日本に秋波を送った。それはちょうど、李英和氏が(注1)で書いておられるように、日本からの賠償金が欲しかったという時期とも一致している。

日朝首脳会談――拉致問題は満額回答を手にせよ!

本来なら、世界で唯一の被爆国として、あるいは拉致被害者およびその家族を抱えている日本としては、もっと積極的に「独自の路線」で北朝鮮に接触して拉致被害者問題解決に当たっていくべきだっただろう。たとえば「北が何としても賠償金が欲しい時」あるいは「アメリカとの橋渡しを何とかしてほしい時」などのタイミングをつかんで、アメリカと親しい日本が「拉致被害者を全員返すなら、~をやってあげるが、どうだ!」といった形で、強力なカードを掲げて北朝鮮に独自に迫るというチャンスはあったはずだ。アメリカと仲良くできるのなら、北は核を放棄する可能性を秘めていた。日本に軍事力はなくとも、老獪な戦術を練ることはできたはずだろう。

6月8日、トランプ大統領と会談した安倍総理は、米朝首脳会談後に日朝首脳会談を目指し、何としても拉致問題を解決したいと表明したが、北朝鮮を巡る周辺国(特に六者協議に関係する米中日露朝韓)の中では、最後に回ってしまった。今となってはただひとえに、トランプ大統領が日本のために「拉致問題を解決しなければ~しないぞ!」と金正恩委員長に迫ってくれるのを待つしかない。

それでもなお、このコラムに書いた「拉致講義」が、日朝交渉に当たり、参考になることを祈る。日本は絶対に「拉致問題は解決済み!」というゼロ回答をもらってこないようにしなければならない。

この「拉致講義」とその経緯を知ることにより、日本はどんなことがあっても「満額回答」を手にしなければならないことが理解できるはずだ。

拉致被害者は生きているのである!

しかし、人の命も時間も不可逆だ。

拉致されてから既に40年以上も経っている。人命救助の際に優先すべきは「時間」だったのではないだろうか。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、台湾への干渉・日本の軍国主義台頭を容認せず=

ワールド

EXCLUSIVE-米国、ベネズエラへの新たな作戦

ワールド

ウクライナ和平案、西側首脳が修正要求 トランプ氏は

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中