最新記事

化学兵器

元スパイ暗殺未遂に使われた神経剤「ノビチョク」はロシア製化学兵器

2018年3月14日(水)17時30分
キャサリン・ハイネット

VXは2017年、北朝鮮の最高指導者、金正恩の異母兄にあたる金正男がマレーシアの空港で暗殺された際に用いられ、一躍メディアの注目を集めた。

アメリカ政府は、金正男殺害の際に北朝鮮が化学兵器を使用したと認定し、これを受けて3月5日には国務省が北朝鮮に追加制裁措置を科している。

神経剤ノビチョク

ソールズベリーで娘と一緒に発見されたスクリパリ用いられた神経剤「ノビチョク」は
第3世代にあたる神経剤で、1970年代から80年代にかけて旧ソビエト連邦で開発された。これ以前の世代のようにガスや液体ではなく、粉末状の状態で保存できる。

ノビチョクの特徴は、北大西洋条約機構(NATO)軍から検知されにくく、NATOの防護服でも歯が立たないこと、さらには2剤を混ぜて使うバイナリー兵器なので、バラバラなら比較的安全に取り扱えることだ。使うときに混ぜると、きわめて高い殺傷性を持つ。

3月11日にはBBCが、ロシアの元スパイであるスクリパリとその娘が食事をしたレストランから神経剤の痕跡が発見されたと報じた。ノビチョクはサリンのような神経剤と比べると効き目がずっと長く続くので、毒殺にはうってつけだと、化学兵器についての著書があるケント大学のウルフ・シュミット教授は説明する。

「事件から数日経っても、微量ながら痕跡が残っていたことからみると、かなり残留性が高い神経剤だろう」

ノビチョクの出所は?

ノビチョクの取り扱いには専門知識や特別な手段を要するため、今回使われた神経剤がイギリス国内で製造された可能性は低いと、シュミットは言う。「こうした物質を実際に製造するには、広範な知識やリソース、設備、機器が必要になる。化学兵器の扱いに関する高度なノウハウが必要だ」

それよりは、ノビチョクがどこかの時点でイギリスに持ち込まれたと考える方が理にかなっている、とシュミットは言う。

ノビチョクがソールズベリーの街に持ち込まれた経緯は、いまだに不明のままだ。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中