最新記事

丸ごと1冊 トランプ

トランプはタフな交渉人──87年と2015年の密着取材から

2018年3月9日(金)18時09分
ビル・パウエル(本誌米国版アジアエディター)

政治のプロも支持率に愕然

この調子で取材対応を終えると、今度はオフィスに取って返して別の取材を受ける。こちらは電話取材で、相手はトランプびいきの保守系政治トーク番組司会者ローラ・イングラムか、彼女に似たようなタイプだ。

ここ数カ月で、予備選緒戦となるアイオワ州やニューハンプシャー州、サウスカロライナ州には顔を出したが、8月初めのトランプはもっぱら自分の名を冠したビルに閉じ籠もり、オフィスと自分の名を冠したバーを往復するだけでニュースを独り占めしていた。

出馬を表明した6月中旬以来、投じた費用は200万ドル。ライバルのジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は300万ドルだが、一向に支持率は伸びない。

トランプ陣営の広報担当は、彼の会社で働いていた20代の女性。トランプ・タワーの5階にあるオフィスは広大だが、がらんとしていた。一方の壁にアイオワ州旗、もう一方には「仕事をしろ」という標語が掲げてあった。

オフィスに人影はない。よその選対本部なら何十人ものスタッフやボランティアが電話をかけまくり、資金集めに奔走しているはずだが。それでも世論調査での支持率は、トランプが高笑いしながら言うように「天井知らず」の勢いだ。共和党の立候補者による最初の討論会を経てもなお、彼はトップを走っていた。

私は政治のプロではない。だからまずは、共和党の党内政治に通じている複数の友人に探りを入れてみた。

するとほぼ全員が、トランプの支持率が右肩上がりであることに愕然としていた。トランプが参戦するまで、彼らは大統領選について楽観的な見方をしていた。「選択肢が多過ぎて選ぶのに困る」と言った友人(ハリウッドの隠れ保守派)もいる。

共和党の立候補者には経験豊富な現職知事や元知事もいれば、カリスマ的な上院議員もいる。そのうちの誰かと民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(共和党から見れば前時代的で精彩を欠き、欠点だらけの政治家だ)の戦いになれば「未来」対「過去」の構図に持ち込める。彼らはそう想定していた。「なのに今は、話題も支持率もトランプがトップだ。信じられない」

まさに信じ難い。その理由を理解すべく、私はロジャー・ストーンに話を聞きに行った。彼はかつてリチャード・ニクソン大統領の下で働き、ロナルド・レーガンの大統領選を手伝い、トランプの下でも20年近くにわたり、時にはロビイスト、時には政治顧問として働いてきた。今回の選挙でも、8月に辞任するまではトランプの選挙アドバイザーを務めていた。

なぜトランプがアメリカ政界の話題を独占できるのか。まずストーンが指摘したのは、誰もが知っている事実。今は多くのアメリカ人が本気で政治に腹を立てており、政治家を憎み、ペテン師と呼んでいる事実だ。その上で、だからこそ国民は「本物」を求めていると続けた。「大金持ちで、本音で語り、他人の金に頼らず、それでも普通の男に見える。そんなトランプはペテン師の対極に位置している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国BYDの欧州第3工場、スペ

ビジネス

再送-ロシュとリリーのアルツハイマー病診断用血液検

ワールド

仮想通貨が一時、過去最大の暴落 再来に備えたオプシ

ワールド

アルゼンチン中間選挙、米支援でも投資家に最大のリス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中