最新記事

丸ごと1冊 トランプ

トランプはタフな交渉人──87年と2015年の密着取材から

2018年3月9日(金)18時09分
ビル・パウエル(本誌米国版アジアエディター)

Kevin Lamarque-REUTERS

<「米朝首脳会談へ」のニュースが飛び交うが、北朝鮮核危機は果たして解決へと向かうのか。ここで今一度、金正恩との交渉に臨むトランプの「実力」を知っておきたい。30年前から現米大統領の「出馬意欲」を追っていた記者が2015年に再び取材して見たその素顔とは? 本誌SPECIAL ISSUEムック「丸ごと1冊 トランプ」より>

長きにわたる取材も、いよいよ大詰め。あとは締めのインタビューを残すのみだ。同僚と私は1カ月前からドナルド・トランプを追い掛けていた。本誌米国版で特集を書くため、私たちは徹底して彼を付け回した。フランス製軍用ヘリの改造機に同乗してアトランティックシティーのカジノへも行った。リムジンの車内、あちこちにあるオフィス、そして自宅にも押し掛けて話を聞いてきた。

1987年のことだった。その年、不動産王にして腕利きのカジノ経営者でもあるトランプは、初めて大統領選への出馬をほのめかした。それが4年ごとの年中行事になろうとは、当時の私は思いもしなかった。

しかし政治のプロたちは何かを嗅ぎつけていた。ある日、トランプはオフィスの留守番電話にジャーナリストたちが残したメッセージを聞かせてくれた。「これはニューヨーク・タイムズのフォックス・バターフィールド、これはワシントン・ポストのデービッド・ブローダー。まだまだあるぞ!」

トランプは注目されるのを楽しんでいた。しかし土壇場で心変わりした。締めの一問一答に意気込む私たちに、トランプは笑顔で言った。「特集用のスクープが欲しいだろ? あげるよ。私は出馬しない」

彼は少し間を置き、それほど意外でもないニュースが私たちの頭に浸透するのを待ってから付け加えた。「でも、もし出馬すれば必ず勝つ」

一瞬の後、私たちは笑い転げていた。トランプ自身も含めて......。

それから30年近い歳月が流れた2015年、私はマンハッタンの5番街にあるトランプ・タワーのエレベーターに乗り、ロビーで取材を終えたばかりのトランプと共に彼のオフィスに向かっていた。トランプはついに、今度こそ大統領選への出馬に踏み切った。私は再び取材を始めた。出馬の理由だけでなく、もっと興味深い事実を、なぜ彼が共和党の候補者指名レースのトップを走っているのかを探らねばならなかった。

トランプ・タワーに足を踏み入れた途端、トランプ現象がいかに尋常ならざるものであるかを思い知らされる。メディアセンターはエレベーター前にあるトランプ・バー。ありとあらゆるメディアがカメラや照明を設置して、取材の順番を待っている。トランプがそこへ、オフィスから下りてくる。そうしてたまたまロビーに居合わせた観光客に手を振り、取材者に向き合って座り、どんな質問にもお決まりのセリフを並べ立てて答える。

「中国人やメキシコ人、日本人をはじめ、われわれをコケにするあらゆる国から雇用を取り戻す!」と言い、ライバル候補であれイランとの核合意であれ不法移民の問題であれ、なんでも「大惨事」のひとことで切って捨てる。

【参考記事】まんが:トランプ・ファミリー全解説──父フレッドから孫娘アラベラまで

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国BYDの欧州第3工場、スペ

ビジネス

再送-ロシュとリリーのアルツハイマー病診断用血液検

ワールド

仮想通貨が一時、過去最大の暴落 再来に備えたオプシ

ワールド

アルゼンチン中間選挙、米支援でも投資家に最大のリス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中