最新記事

軍事

北朝鮮による電磁パルス攻撃の現実味

2018年1月6日(土)15時30分
ジョン・ケスター

電磁パルスは巨大な雷のようなもので、あらゆるインフラに影響する YURY_DMITRIENKO/ISTOCKPHOTO

<核爆発による電磁波でインフラを破壊するEMP攻撃で米国民の9割が1年以内に死亡?>

アメリカの安全保障強硬派の一部は何年もの間、電磁パルス(EMP)兵器の脅威を警告してきた。それは衛星通信を不能にし、電力系統を停止させ、ある物理学者が「大陸規模のタイムマシン」と呼んだように、アメリカを電話やテレビも電力もない時代に逆戻りさせる――。

ここ数カ月、北朝鮮とアメリカの言葉の応酬がエスカレートするなかでEMP問題が再燃している。北朝鮮が9月3日に核実験を実施した際、同日朝に朝鮮中央通信が、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がICBM(大陸間弾道ミサイル)に搭載可能な水爆を視察したと報道し、「強力なEMP攻撃もできる」と伝えたためだ。北朝鮮がEMPを公式に認めたのは初めてだった。

EMPとは、核爆発によって生じる強力な電磁波のこと。高度数十~数百キロの高層大気圏内で核兵器を爆発させた場合、地表には爆風や放射能による直接の影響はないとされる。しかし、EMPが地磁気に引き寄せられて地上へ向かう際に大電流になり、送電線や電話やインターネット回線、航空機関の管制システムからパソコンなどの電子機器まで破壊。幅広い分野を長期にわたり機能不全に陥らせる恐れがある。

EMPへの懸念は1962年にアメリカが行った「スターフィッシュ・プライム」実験にさかのぼる。核兵器を太平洋の約400キロ上空で爆発させたところ爆心から1400キロも離れたハワイで停電が起こり、科学者はその威力に気付いた。

元CIAの核専門家ピーター・プライらの報告書によれば、EMP攻撃でアメリカの電力網が破壊されれば、国民の約9割が1年以内に死亡する可能性があるという。

風向きが変わり始めた

しかし北朝鮮の実行力について、アメリカでは懐疑的な声が非常に多い。理論上、電磁パルスは破壊的な力を持つ。しかしその効力を最大限に生かす兵器を造ることがどれほど難しいか、科学界では何年も議論されてきた。無党派の独立監視団体「政府監視計画(POGO)」の調査部長ニック・シュウェレンバックから見て、そうした仮想攻撃への恐怖は「多くの不完全な仮定に基づいている」。

米国防大学の上級研究員で物理学者のユサフ・バットによれば、EMP攻撃の成功には条件がある。爆弾を一定の高度で爆発させなければならず、特定の発射方法が必要だという。

電波から脳を保護するためアルミホイルをかぶる人々がいるが、EMPもそれと変わらないと批評家は冷たい目を向けてきた。北朝鮮がEMPに言及した数週間後にも、EMP攻撃の脅威を評価する米議会の委員会は16年間の活動に幕を閉じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

リチウム、蓄電ブームで今年は需要拡大か 供給不足に

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ再攻撃警告 反発の政権メンバ

ワールド

仏、9月から15歳未満のSNS禁止目指す=報道

ワールド

ベネズエラの石油生産は米国次第とゴールドマン、26
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 6
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中