最新記事

米中関係

トランプ籠絡で習近平は高笑い

2017年11月16日(木)11時40分
シャーロット・ガオ

magw171116-xi03.jpg

9日の公式晩餐会の会場に入る両夫人 Jonathan Ernst-REUTERS

中国の望みどおりに?

習はこの「奇跡」を通じて、国際社会に対しても強烈なメッセージを発信することに成功した。中国には国際問題をカネで解決する力があるのだ、というメッセージだ。

過激な主張で知られる中国共産党系のタブロイド紙「環球時報」の胡錫進(フー・シーチン)編集長は、もっと率直な言葉で今回の大型商談の意味合いを論評している。「カネを儲けたければ、中国に逆らうな。さもなければ、貧乏になる。世界は今、このことを知るべきだ」

トランプはそのことを完全に理解しているようだ。9日、2534億ドルの商談成立が発表されたビジネスイベントのスピーチでトランプは、アメリカの巨額の対中貿易赤字について中国を非難するつもりはないと発言。貿易赤字の責任は、アメリカの歴代政権にあると述べた。これまで中国を非難してきたのとは正反対の言葉と言ってもいい。

この発言はその場に集まっていた聴衆から喝采されただけではない。中国の国営メディアでも盛んに取り上げられ、中国のソーシャルメディアでも多くのユーザーが話題にした。アメリカ政府の対中姿勢が軟化した表れだ、というわけだ。

今回の訪中でトランプがアメリカの姿勢を軟化させたのは、貿易問題だけではない。トランプは中国側の要請に従い、共同記者発表で報道陣の質問を受け付けなかった。また、歴代のアメリカ大統領と異なり、中国の人権問題にも言及しなかった。これは、中国政府としては最も触れられたくないテーマだ。

この2つの点も国内と国際社会向けに、中国がアメリカに対して外交上の勝利を収めたことを一層印象付ける効果を持った。

9日に北京の人民大会堂で催された公式晩餐会のスピーチで、習はアメリカ建国の父の1人であるベンジャミン・フランクリンの言葉を引用した。「忍耐心を持つ者は、望みどおりの結果を手にできる」という言葉だ。

今回のトランプ訪中は、フランクリンの格言の正しさを世界に向けて実証した。中国は忍耐心とカネの力を武器に、望みどおりの結果を手にすると、世界は思い知らされたのだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2017年11月14日発売最新号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

From thediplomat.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、準備金目標範囲に低下と判断 短期債購入決定

ビジネス

利下げ巡りFRB内で温度差、経済リスク綿密に討議=

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ワールド

米下院特別委、中国軍の台湾周辺演習を非難 「意図的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中