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耐えられる? 「30日間、頭を下にして横たわる実験」をNASAが実施中

2017年10月24日(火)18時20分
松岡由希子

Credits: DLR

<NASAはドイツ航空宇宙センターとともに、傾斜角6度で頭を下向きにしたまま30日間過ごすという実験を開始した。食事や排泄などの際も一切起き上がることはできない>

宇宙飛行士が経験する視覚トラブルと似た状態に

NASA(アメリカ航空宇宙局)は、ドイツ航空宇宙センター(DLR)との提携のもと、宇宙飛行士の体液の圧力が目や視神経にもたらす影響を分析するべく、2017年10月、12名の被験者を対象にシミュレーション実験を開始した。

これは、NASAが15分野にわたって実施している研究ミッション「フライト・アナログス・プログラム」のひとつで、宇宙でヒトの身体が体感するものと似た作用をもたらす状況を地上の専門施設で人工的につくりだし、宇宙飛行士が安全かつ生産的に宇宙探査するための手法や技術の研究開発に役立てようというものだ。

この実験プロジェクトでは、ドイツ西部ケルンのドイツ航空宇宙センターにある宇宙医学研究施設「envihab」で、被験者がベッドに横たわったまま30日間過ごす。被験者は、食事や排泄、入浴などの際も一切起き上がることはできず、常時、ベッドの上で、傾斜角6度で頭を下向きにした体勢を保たなければならない。

これは、宇宙の無重力状態をシミュレーションしたもので、被験者の体液が頭の方へ流れるようにすることで、宇宙空間で宇宙飛行士が経験する視覚トラブルを引き起こす状況と似た状態にし、無重力状態に身体がどのように順応するのかを観察するのだという。

フランスでは、1万6000ユーロが支給

また、国際宇宙ステーション(ISS)をはじめ多くの宇宙船の内部では、地球の大気よりも二酸化炭素の濃度が高くなることをふまえ、被験者が過ごす室内の二酸化炭素濃度は0.5%と、大気中の二酸化炭素濃度0.04%よりも高く設定されている。

この実験プロジェクトの期間中、被験者は、家族や友人と電話で連絡をとることはできるものの、面会は認められておらず、食事のメニューや時刻も厳密に管理される。また、MRI検査で脳や目の構造の変化をチェックされるほか、血圧や心拍数、栄養吸収、エネルギー消費、骨量、被験者の気分までモニタリングされる。

なお、同様のシミュレーション実験は、これまでも実施されている。NASAのほか、フランス宇宙医学・生理学研究所(MEDES)でも、20歳から45歳までの男性を対象にボランティアを募り、60日間にわたる同様の実験プロジェクトを2017年1月から実施。被験者には報酬として1万6000ユーロ(約213万円)が支給されるそうだ。

さて、このような"ベッドに横たわるだけの仕事"、あなたなら、トライしてみたい?

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