最新記事

北朝鮮情勢

中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗

2017年9月4日(月)18時04分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

この内の(1)と(3)は、北朝鮮にとっては存亡の危機に関わる脅威である。もし北朝鮮がグアムなどのアメリカ領を先制攻撃してアメリカから報復攻撃を受けた場合、中国は北朝鮮側に立たないということであり、その際、ロシアもまた中国と同じ立場を取るということを意味する。

北朝鮮にとって中国は世界で唯一の軍事同盟を結んでいる国なので、中国が「中朝軍事同盟を無視する」と宣言したとなれば、北朝鮮は孤立無援となる。北朝鮮の軍事力など「核とミサイルと暴走」以外は脆弱なものだ。韓国や日本には大きな犠牲を招くだろうが、アメリカと一国で戦えば全滅する。したがって14日、グアム沖合攻撃は延期(実際上放棄)することを表明した。

北朝鮮がミサイル発射を自制するなどという好機は二度とない。しかも核・ミサイル技術がここまで発展した今となっては絶好のチャンスだった。

だから習近平は8月17日、訪中した米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長と人民大会堂で会談した時に異例の厚遇でもてなした。それはアメリカに米韓合同軍事演習を「暫時」やめてほしかったからだ。

中国の主張は「双暫停」(米朝双方が暫定的に軍事的行動を停止する)。

この前提の下で北朝鮮が一時的にミサイル発射を見送ったのだから、アメリカも同様に8月21日から始まる米韓合同軍事演習を一時的に停止してほしかった。そうすれば話し合いのテーブルに着ける。

金正恩が言っていた「アメリカの動向をしばらく見守る」とは、この8月21日から始まる米韓合同軍事演習を指している。もし演習を行なえば、それ相応の報復を覚悟しておけという趣旨のことを金正恩は言っていた。

しかし8月17日にワシントンで開催された日米の「2+2」外交防衛会議後の共同記者会見で日米の外務防衛代表は日米韓の安保協力強化と北朝鮮に対する圧力をかけ続けることで一致したと述べ、その流れの中でダンフォードは「米韓合同軍事演習の実施は、いかなるレベルでも交渉対象になっていない」と述べたのである。

この時点で北朝鮮問題の動向は決まった。

一回だけ米韓合同軍事演習を中止することは出来なかったのか。その後の北朝鮮の爆発的な暴走と日本に与える脅威を考えたら、どちらが賢明な選択であったか、考えてみる必要があるだろう。
 

圧力をかけることは北朝鮮に技術向上の時間的ゆとりを与えるに等しい

9月3日のNHK日曜討論で、「8月14日に北朝鮮がグアムへのミサイル発射を抑制したのはなぜだと思うか」という趣旨の質問に対して、河野外務大臣は(正確には記憶していないが)おおむね「おそらくアメリカが強く出たことを気にしたのではないか」という見方を示していて、少なくとも「中国が中朝軍事同盟を持ち出して北朝鮮を威嚇したから」という話は出なかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中