最新記事

北朝鮮情勢

中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗

2017年9月4日(月)18時04分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

日米2プラス2会合 北朝鮮問題などを協議(8月17日、ワシントン) Jonathan Ernst-REUTERS

北朝鮮が核実験を強行した。習近平は再び顔に泥を塗られた。それ以上に重要なのは、中国が切った「中朝軍事同盟」カードの重要性を、日米が読み切れなかったことだ。最後のチャンスを逃してしまった事実は大きい。

習近平は再び顔に泥

5月14日付けのコラム「習近平の顔に泥!――北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?」に書いたように、中国が建国以来最大のイベントと位置付けていた一帯一路(陸と海の新シルクロード)国際サミット初日の朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射して習近平国家主席の顔に泥を塗った。世界を中国に惹きつけるための晴れの舞台で開会の挨拶をする直前だった。

今回もまた、9月3日から習近平の政治業績地の一つ、福建省のアモイでBRICS(新興5ヵ国)会議を開催する、まさにそのタイミングに合わせて核実験をしたのである。又しても習近平が晴れの舞台として開会の挨拶を準備万端整えていた最中のことだ。

なぜ北朝鮮は必ず習近平の晴れの舞台を狙うのか?

それは金正恩委員長が習近平を嫌い、「敵」と位置付けているからである。

習近平の方も朝鮮半島の非核化に逆行する金正恩の核・ミサイル開発に関する暴走を実に苦々しく思っている。二人はおそらく「世界で最も仲が悪い首脳」だろう。金正恩にとって最大の敵がアメリカなら、2番目の、あるいはそれと同等程度の敵は中国なのである。

その中国に北朝鮮を説得する力などないが、唯一、中国は強烈なカードを持っていた。

それは「中朝軍事同盟」というカードだ。

中国が切っていた「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米

8月15日付のコラム「北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因」に書いたように、8月14日、金正恩は「アメリカの動向をしばらく見守る」と述べ、グアム沖への弾道ミサイル発射を一時見送る考えを示した。

その原因は8月10日に中国が北朝鮮に発した警告にある。

くり返しになるが8月10日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は社説として以下の警告を米朝両国に対して表明した。

(1)北朝鮮に対する警告:もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが報復として北朝鮮を武力攻撃した場合、中国は中立を保つ。(筆者注:中朝軍事同盟は無視する。)

(2)アメリカに対する警告:もしアメリカが米韓同盟の下、北朝鮮を先制攻撃すれば、中国は絶対にそれを阻止する。中国は決してその結果描かれる「政治的版図」を座視しない。

(3)中国は朝鮮半島の核化には絶対に反対するが、しかし朝鮮半島で戦争が起きることにも同時に反対する。(米韓、朝)どちら側の武力的挑戦にも反対する。この立場において、中国はロシアとの協力を強化する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中