最新記事

制裁措置

北朝鮮の制裁逃れはこうして続く

2017年8月30日(水)11時40分
ダニエル・ソールズベリー、エンディ・マト(ジャーナリスト)

金正男の暗殺事件で友好関係が暗転した(マレーシアの北朝鮮大使館) Athit Perawongmetha-REUTERS

<北朝鮮の洗練された武器ビジネスを支えるマレーシアのフロント企業の知られざる実態>

7月4日に北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験に成功したことを受けて、ジョセフ・ユン米国務省北朝鮮政策担当特別代表が東南アジアを訪問した。関係国に北朝鮮への圧力を強めるよう働き掛けるためだ。

11日にはシンガポールで、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の外交当局者らが出席する国際会議「北東アジア協力対話」に参加。その後ミャンマー(ビルマ)も訪れた。

シンガポール、ミャンマーの両国では近年、北朝鮮の不法取引に絡んで重要な出来事が起きている。13年に、キューバで武器を積み込んだ北朝鮮籍の船がパナマ運河で拿捕された。これについてシンガポール政府は、資金調達などに関わった容疑で、自国の海運会社を起訴。有罪判決が下され、今年5月に10万ドルの罰金刑が科された。

07年に国交回復した後、ミャンマーは北朝鮮の武器ビジネスの得意先であり、軍事政権下で北朝鮮から核関連技術が移転されているという疑いもあった。しかし、11年の民政移管後は経済と政治の情勢が大きく変わり、北朝鮮への軍事的な依存を弱めている。

北朝鮮との黒いつながりで、最も注目すべき東南アジアの国はマレーシアだ。北朝鮮がマレーシア企業を隠れみのにして、制裁逃れの武器ビジネスを行う実態が明らかになってきた。

【参考記事】北朝鮮を止めるには、制裁以外の新たなアプローチが必要だ

マレーシアと北朝鮮は73年に国交を樹立し、通商関係を築いてきた。03~04年に双方が大使館を設置して、09年には互いに入国ビザを免除。北朝鮮からビザなしで渡航できる唯一の国として友好関係を続けてきた。

ただし、今年2月にクアラルンプール国際空港で、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)が暗殺される事件が発生。殺害には北朝鮮当局が深く関与しているとされ、両国の外交関係は緊張が高まっている。

マレーシアは多くの東南アジア諸国と同様に、国際的な輸出規制が自国の発展を阻害することを警戒してきた。結果として、核技術の拡散などに利用されてきた事実がある。

04年に発覚した「カーン・ネットワーク」事件では、パキスタンの核開発の父と呼ばれる科学者のアブドル・カディル・カーンらが、北朝鮮やイラン、リビアに核関連物質や技術を売り渡していた。マレーシアのSCOPE社が調達した遠心分離機も、ドバイを経由してリビアの核関連施設に渡ったが、同社は当時のマレーシアの国内法に違反していなかった。

09年に当時のバラク・オバマ米政権は、特にイランとの関係を念頭に、「不法取引の世界で、マレーシアが『第2のドバイ』になりつつある」と懸念を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年の米成長率予想2%に上振れ、雇用は低調に推移

ワールド

元FBI長官とNY司法長官に対する訴追、米地裁が無

ワールド

再送-トランプ氏、4月の訪中招待受入れ 習氏も国賓

ワールド

米・ウクライナ、和平案巡り進展 ゼレンスキー氏週内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中