最新記事

制裁措置

北朝鮮の制裁逃れはこうして続く

2017年8月30日(水)11時40分
ダニエル・ソールズベリー、エンディ・マト(ジャーナリスト)

04年に国連安全保障理事会で大量破壊兵器の不拡散に関する決議が採択されてから6年後に、マレーシアは戦略貿易法を制定(施行は翌11年)。通常兵器も含めて、軍事目的に転用される可能性のある輸出品を総合的に管理する仕組みができた。

ただし、その効果はまだ限定的だ。テロ資金対策を評価する国際機関「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)」は15年の報告書で、マレーシアは経済制裁を実施する上で技術的な遅れがあると指摘。例えば、国連決議の実行に際し、国内の手続きに時間がかかり過ぎるという。

13年と16年の国連の報告によると、マレーシアは、北朝鮮の武器商人の経由地や取引場所になっている。さらに、同国を拠点とする2つの企業と北朝鮮の武器ビジネスの関係が明らかになりつつある。

magw170830-malay02.jpg

グローコムのオフィスがあるとされる建物(クアラルンプール) Ebrahim Harris-REUTERS

【参考記事】世論調査に見る米核攻撃の現実味

洗練されたビジネスプラン

今年初めに安保理に提出された国連報告書によると、北朝鮮ビジネスの筆頭格と思われるのが、マレーシアに拠点を置くグローバル・コミュニケーションズ社(グローコム)だ。同社はウェブサイトで軍や準軍事組織向けの無線システムを販売している。

マレーシア国内ではグローコムという企業の登録はないが、05年と12年に設立された実在する2社が事業を行っているとみられる。報告書はグローコムを、パン・システムズ平壌の「フロント企業」としている。

パン・システムズはシンガポールの企業で、この平壌支社は、マレーシアや中国にある北朝鮮のフロント企業や代理会社を統括しているとされる。

マレーシアは、パン・システムズ平壌の「主な海外駐在員の拠点」として使われてきた。商品の輸送でも重要な役割を果たしているとみられ、11年には、タイの架空の取引先に輸出しようとした無線機器が当局に押収された。

昨年7月にも、北京からエリトリアに向けて航空貨物として出荷されたグローコムの軍用通信機器が、途中で押収されている。同社の最近のパンフレットによれば、50以上の市場で年間1000億ドルの取引実績がある。

もう1社は92年創業の造船会社ケイ・マリーンで、16年12月に米国務省の対北朝鮮制裁リストに追加された。北朝鮮との具体的な関係を示す証拠はないが、同社が11年にYouTubeに投稿した動画広告はかなり興味深い。

動画の前半は、ゴムボートやスピードボートなど商用船舶の宣伝だ。しかし、後半は画面が一変。北朝鮮製にそっくりなデザインの軍用船が登場する。魚雷艇、半潜水型船舶、小型潜水艇などが次々に紹介され、本格的な宣伝ビデオのようだ。ただし、これらの船舶がマレーシアで製造されていることを示す情報はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中