最新記事

核兵器

世論調査に見る米核攻撃の現実味

2017年8月29日(火)17時30分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

ミサイル実験で北朝鮮と米軍および韓国軍の緊張は高まる一方だ United States Army-REUTERS

<敵国の民間人より米軍兵士の命、戦争の早期終結のために核も容認――。アメリカ人の本音は「あの頃」のまま>

長距離ミサイルの発射実験を続けるなら北朝鮮は「世界が見たこともないような炎と怒りに直面する」ことになる――。8月8日、そう警告したドナルド・トランプ米大統領だが、どこまで本気なのか。先制攻撃を仕掛けていない国に対して、本当に核攻撃を仕掛けるだろうか。

大方の意見は懐疑的だ。核の先制攻撃には側近が反対するだろうし、国民も正式な発言権はないが大統領の行動を制限するはず――というのが世間一般の見方だ。広島への原爆投下以降、アメリカ人の精神には「核のタブー」が染み込んでいる、あるいは通常兵器でも非戦闘員を殺すことには抵抗が強くなっていると指摘する専門家もいる。

だが楽観はできないかもしれない。安全保障専門誌インターナショナル・セキュリティーの最新号で、スタンフォード大学のスコット・セーガン教授とダートマス大学のベンジャミン・バレンティノ准教授は、アメリカの世論が「戦時に核兵器の使用を検討する大統領にとって重大な制約となる見込みは薄い」と結論付けている。実際、第二次大戦末期のハリー・トルーマン大統領と同じような状況に置かれたら、国民の大多数が核の先制攻撃を支持するだろう。

現在、世論調査でアメリカ人の大部分は広島と長崎への原爆投下は間違いだったと回答する。だが、そうした調査結果は核兵器の使用と民間人の殺戮に対するアメリカ人の「本音」を誤解させると、セーガンとバレンティノはみている。

問題は現在のアメリカ人の考え方が第二次大戦当時とは違っていることだ。日本は今やアメリカの主要な同盟国。真珠湾攻撃の衝撃や太平洋戦争の恐怖、米軍に大勢の犠牲者が出ることを何としても阻止するという決死の覚悟を記憶している者はほとんどいない。

そこでセーガンとバレンティノは、英世論調査機関ユーガブに委託して世論調査を実施、回答者に次のような「ニュース」を見せた。核合意に違反したイランにアメリカが制裁を科す。これに対しイランはペルシャ湾上の米空母を攻撃、米兵2403人が死亡する(明確な言及はないが真珠湾攻撃での米軍の死者と同数)。

アメリカはイランの軍事施設を報復攻撃。イランは降伏を拒み、アメリカはイランに侵攻するが米軍の死者は1万人に達し、戦況は泥沼化する。

【参考記事】核攻撃を生き残る方法(実際にはほとんど不可能)

敵国の民間人を犠牲に

ここで回答者は選択を迫られる。米兵の犠牲者が2万人にまで膨らむと知りながら首都テヘランまで地上部隊を侵攻させるか。それとも「イラン政府に降伏せよと圧力をかけるため」イラン第2の都市マシャドに核爆弾を投下して民間人10万人の命を奪うか――。

結局、過半数の55%が侵攻継続よりも核爆弾の投下を支持。大統領が投下を選べば支持するとの回答は59%に上った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領、自身の発言を「敵が誤解」=国営テレビ

ワールド

王外相、米中対話の重要性強調 イラン情勢巡り軍事行

ワールド

トランプ氏、女子学校攻撃は「イランの仕業」 証拠は

ワールド

レバノン死者300人近くに、イスラエルは「壊滅的な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 7
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 8
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中